ハッブル宇宙望遠鏡が、アインシュタインの予言の一つが間違っていたことを証明した。彼は偉大な物理学者だったが、技術の進歩に関しては悲観的すぎたようだ。
このほどハッブル宇宙望遠鏡は、地球から約18光年離れたところにある白色矮星(太陽程度の質量の恒星が死ぬ時にできる、小さくて高密度の星)が、その背後にある遠方の星からの光を曲げていることを確認した。アインシュタインは、一般相対性理論に基づいてこの効果を予想していたが、科学者が実際にそれを観測するのは不可能だろうと言っていた。(参考記事:2017年5月号「天才 その条件を探る、アインシュタインほか」)
もちろん、彼が悲観的な予言をしたのは、1990年の宇宙望遠鏡の打ち上げより半世紀以上も前のことだ。
今回、ハッブル宇宙望遠鏡はその観測に成功し、天文学者たちは、曲げられた星の光が運んできた手がかりにもとづき、白色矮星「スタイン2051B」の質量を特定することができた。その結果は、100年前に予想された恒星の質量と非常によく一致していた。(参考記事:「132億年前の銀河、ハッブルが観測」)
6月7日に科学誌『サイエンス』に論文を発表した米国宇宙望遠鏡科学研究所のカイラシュ・サフ氏は、「私は長年、この問題について考えてきました。成功するかどうかはわかりませんでしたが、挑戦する価値はあると確信していました」と言う。
悲観的だったアインシュタイン
この現象は重力レンズ効果と呼ばれ、実際の観測により確認されている。なかでも有名なのは、1919年の皆既日食の際にアーサー・エディントンが行った観測だ。エディントンは、暗くなった太陽のすぐ近くに見える星の位置を測定し、太陽の重力が遠方の星からの光を曲げていることを確認して、アインシュタインの相対性理論の正しさを証明した。
同様の手法は、太陽系外惑星やダークマターを検出したり、銀河団をレンズ代わりにしてはるか遠方の恒星の爆発を観察したりするのに用いられてきた。(参考記事:「重力レンズで太古の銀河を観測」)
けれどもこれまで、1つの小さな恒星の重力が別の小さな恒星からの光を曲げている様子が確認されたことはなかった。アインシュタイン自身が1936年にサイエンス誌に発表した論文でも、それを見ることは不可能に近いと指摘していた。
アインシュタインがこの論文を発表したのは、知人に頼まれたからにすぎない。論文の冒頭には、「先日、R. W. マンドルに、私が彼の依頼でやってあげたちょっとした計算の結果を発表してほしいと頼まれた。本論考は彼の要望を受けて執筆したものである」と記されている。