信号を守る日本人の方が2.3倍も歩行者事故が多いのは?


 いかなる車も通らないことがわかりきっている信号を守っているとか、アホなの?――という趣旨の記事が出ていた。

車が一台も通らない信号を守れと声高に叫ぶ人は何を守っているのだろう - 接客業はつらいよ! あけすけビッチかんどー日記!



 このブロガー=「かんどー」という人は、「危険がないと十分に判断できるなら法律は守らなくていい」と主張していることになる。
 だが、その「判断」には客観的な基準がないから、個々人の判断でどこまでも甘くなっていってしまう。
 例えば、労働基準法の「労働時間8時間」を10分超えたら、労働者が死んだり、健康が失われたりするわけではないだろう。
 法規制の多くがこういうものではないのか。
 それを踏み破ったからといって、ただちに個別ケースにおいて、そこに危険が現れるわけではない。
 法律で客観的に線を引かなくてはならない。だから、「十分安全と個々人が判断できるなら法令は守らなくてよい」、というのはマズいのである。


 ただ、そんなことを言われても「かんどー」は釈然としないかもしれないよな。
 実際に、信号守っている国(日本)と全然守ってねー国(フランス)で歩行者の事故はどうなっているか、比較してみよう。

赤信号で横断歩道を渡った割合はフランスで41.9%、日本で2.1%と二国間で大きく異なっていた。男性や20〜30代が信号無視をする傾向が強かったという。(2017年2月15日付AFP)

http://www.afpbb.com/articles/-/3117931

 在フランス大使館の公式サイトですらこの有様だ。

尚、当地では歩行者はまず信号を守らないと言っても過言ではありません。車の列が途切れると、赤信号でも平気で道路を渡り始めます。いつ歩行者が飛び出してきても対処できるように、市街地ではスピードを抑えて走行することは当然として、常に道路の両脇の歩行者にも気を配るようにしましょう。(強調は引用者)

http://www.fr.emb-japan.go.jp/jp/taizai/kotsu4.html

 それでいながら、歩行者の事故はどうなっているか。
 ちょっとデータがすぐに見つからないけど、例えば内閣府の2003年の国際比較データ。
http://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/h17kou_haku/genkyou/sankou02.html


 歩行中の交通事故死者数は、フランスは626人、日本は2739人。人口は日本の方が2倍だからそのぶんを差し引いても日本の方がフランスよりも歩行中の2.3倍も多い。


 「かんどー」はいうかもしれない。


 「ほら。ほらほらほらほらほらほらほらほら。ほらぁ! 結局、法規を形式的に愚直に守るより、ホントに車が来るかどうかをきっちり確かめている方が事故らないんじゃないの?


 うん、そう言いたくもなるよね。



 ただ、じゃあどんな年齢の人が死んでいるのかというと、日本では過半数が高齢者。交通事故で死んでいる人の半分以上が年寄りというわけだ(フランスは2割)。
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/6836.html

 さらに、その中でトップの死因が歩行中の事故で、約半数を占める。
http://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/h28kou_haku/gaiyo/features/feature02.html


 つまり、日本で歩いて死んでいる人の多くは高齢者。



 高齢者自体が死にやすい(失礼)という状況もあるだろうが、高齢者の行動の問題点として専門家(蓮花一己・帝塚山大学・交通心理学)は次のような原因をあげている。

  • 信号や横断歩道のある交差点以外のところで横断する(交差点まで歩くのは面倒)
  • 突然、車道に飛び出す(先急ぎ傾向、目の前のことにすぐに反応する)
  • まっすぐ渡らない(斜め横断、横断後車道を歩くなど自分の都合で横断する)
  • 歩道橋の下を横断する(階段の登り降りは高齢者には負担)
  • 右からの車をやり過ごすと左からの車を確認せず横断する(渋滞している車間から飛び出す)
  • 車が近づいて来ているのに横断する(加齢による精神機能の低下で車のスピード、車との距離が正しく認識、判断できない)

(強調は引用者)

http://www.nspc.jp/senior/archives/2922/

 信号を守っていないというか、信号のあるところに来ねえ
 冒頭で紹介した日仏の比較研究の場所となった、信号のところにやって来ず、信号機の待っていないので、統計にカウントされていないのである。
 のびのび自由闊達に横断してハネられているわけだ。


 ということは。
 信号を守らないで「大丈夫だろう」と判断した結果、結局ハネられている、というのが日本の年寄りの実態だというわけである。その意味ではやはり愚直に法令遵守をさせる意味はある。
 しかし、フランスではそういう判断をして渡っていても日本ほど事故になっていないのだから、本当に自己責任の覚悟で渡れば実際に事故は起きにくいんじゃないのか? ということもまた言えそうである。


 うーん、記事書いてて、結論が全然スッキリしねーな。