スポットライトの当たらないベンチの裏側にこそスペシャリストの日常があった。巨人・鈴木尚広外野手(38)が今季限りで現役を引退。野球に対してストイックで、代走として塁に立つまでに気が遠くなるような準備を重ねた職人だ。
20年間の現役生活を振り返った13日の引退会見では、思い出に残っているシーンについて打ち明けた。
「ベンチの裏側の(ウオーミング)アップするところ。自分がいつ行くか分からない戦いをずっと見つめながら、準備していく。そういう時間の方がとにかく長い。失敗することもあれば、成功することもある。でも、次の日にはそこに立っていなければいけない。僕の野球人生の中で準備が全て。僕にとっては一番の、思い出の場所になると思います」
代走の切り札としてプロ野球人生の多くを過ごした鈴木は試合終盤に出番が巡ってきた。ベンチに座って戦況を見つめ、中盤からベンチ裏へ移動。走ったり、ストレッチをしたりして体を目覚めさせ、集中力を高めた。それはレギュラーシーズン143試合+ポストシーズン、すべて同じ。今季の出場は44試合。出場機会がない試合もあったが、常にベストな状態を作り上げるのが「仕事」であり、ベンチ裏こそが「職場」といえたかもしれない。