石川好氏インタビュー(上)「南京『大虐殺記念館』に日本の漫画を」

 8月15日、中国・南京にある「大虐殺記念館」で、日本の漫画家による「私の八月十五日」戦争体験漫画展が始まった。この企画を3年がかりで実現に導いた作家の石川好氏に、前回(昨日)に引き続き、その意図や反響などを聞いてみた。

開催を、あえて8月15日の南京にしたわけは?

オープニング式典で挨拶する石川好さん

河野 開催時期については、石川さんが8月15日という日を提案したのでしょうか?

石川 そうじゃないんです。1月に南京を訪れた際に、私は諸々の準備を終えるのに5カ月くらいは必要なので、6月頃には開けるでしょう、と言ったわけです。すると、朱成山館長が「せっかく八月十五日という日本人にとって特別な日をタイトルに掲げているわけですから、敢えて8月15日にぶつけませんか」と提案してきたのです。

 「南京は暑い盛りですが、日本の皆さんが8月15日をどういう気持ちで迎えたのか、それを大事にするのが記念館の仕事だと思います。自分の見立てでは3カ月間ここで開催して、それから場合によっては盧溝橋の抗日記念館などに巡回させることも考えられます。その後は、またこちらで常設展にしてもいいでしょう」と。

 私は勇んで日本へ帰り、2カ月後には展示用の絵を162枚携えて、また独りで記念館まで行きました。そして、多くの人に見てもらう以上は、少し工夫をしましょうということで、著名漫画家によるオリジナル色紙四十数点のコーナーを作ったり、日本の漫画本を並べるスペースを作ったりという話を具体化しました。ともかく観客が入りやすい、見やすい、そして子供を引き付ける魅力的なディスプレーにする必要があると考えたわけです。

靖国神社の遊就館に「中国人の戦争体験」を展示するようなもの

河野 とはいえ、開催直前まで心配の種は尽きなかったと思いますが・・・。

石川 その通りです。例えて言えば、靖国神社の遊就館に「中国人の戦争体験」を展示するようなものでしょう。それぐらい危険を伴うものです。いまはネット社会ですから、どういうネット攻撃が起きるか、想像もつきません。

 努めて平静を装っていましたが、内心は気が気でなかったというのが真相です。中国は底知れないところがあるので、いったん騒ぎが起きると、それが燎原の火となって広がる恐れがたぶんにあります。実は、中国側でも開催を最終決定するまでには国家レベルで何度も慎重な検討が重ねられ、オープニング当日も不測の事態に備えて細心の注意が払われていたことを知っています。

 幸い、開幕してから数日後に連絡をしましたら、記念館に対する抗議は2件しかなくて、後はおおむね好意的な反応であったという話でした。もちろん「日本人が勝手に自分で仕掛けた戦争で、辛い目に遭うのは自業自得だ」といった厳しい意見を寄せた人もいたようですが、むしろこういう意見が出ることこそ望むところです。

 ああいう絵を見たり文章を読んで、議論が生まれる。戦争を巡る会話が日中間に成立するということが大事だと思うのです。ハルビンや天津の美術館からは早速開催の申し出が届きました。ともかく13億人の国ですから、できるだけ幅広い人たちに見てもらいたいと思います。