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■櫻井マチ子展 (2013年11月11~16日、札幌)

2013年11月16日 08時08分08秒 | 展覧会の紹介-絵画、版画、イラスト
 
 札幌の個性派画家、櫻井マチ子さんが、札幌時計台ギャラリーの2階全室を使った個展を開いている。
 精力的に個展を開いている彼女の画歴の中でも、屈指の規模の大きな発表ではないかと思われる。

 A室が既発表の大作、B室がM80の連作「アダルト・ベイビー」9点、C室が小品という構成だ。
 この中では、すべて同じ大きさ、縦位置でそろえたB室に最も驚いたが、まずは順番でA室から。

 冒頭の画像は「色即是空(ああ、私だってカタルシス)」。
 これだけ見てもわかるように、櫻井さんの絵は非常に個性的で、説明が難しい。
 性的な暗示があるという人は少なくないが、ではどこがどうエロティックなのかと言われると、ロールシャハテストみたいなもので、具体的に何か性的な表象があるわけではないのである。
 にもかかわらず、ある種のなまめかしさを感じさせるのは、直線がほとんどなくスムーズな曲線が多く引かれていることや、筆跡を感じさせない丁寧で平滑な塗りのせいかもしれない。
 また、この絵にも見られる左右対称性もくせものだ。左右対称は仏壇のような礼拝性につながる場合が多いと思うが、櫻井さんの絵はむしろ秘教的なあやしさを感じさせるのに資しているとはいえまいか。




 モティーフでは、は虫類が多く、この「色即是空…」のように象なども出てくるし、南国の植物も頻出する。総じて、北方的ではなく、南方を感じさせる。そのあたりが、事実上の櫻井さんの個展の観を呈していた「スネークアート」展(札幌円山動物園)企画につながったんだろうと思う。
 では、いわゆる具象画なのかと言われると、抽象画的な性格も強い。描かれているものは、なにか具体的なモティーフがなさそうなものも多い。特段、主張があるわけでもないのだ。
 
 そういうわけで、「櫻井さんの絵は非常に個性的で、他人に、どういう作品であるのかを説明するのが難しい」という先の言明に立ち戻ってしまうのである。
 しかし、それは、或る意味で、ものすごく絵画的であるとはいえないだろうか。
 現代の美術は、ついに、現実社会の反映ではないはずだからである。
 「言葉で割り切れない」ことこそ、現代のアートであろう。

 上の画像は、A室。
 右から2番目の「very very」は、2004年ごろに新道展で見た記憶がある。


 続いてB室。



 先に述べたように、「アダルトベイビー」と題する連作9点が並ぶ。

 すべてM80号、縦位置で、この展示室をこれほど統一的な空間にしてみせた画家は、それほど多くないだろう。



 10点のほうがキリがいいとか、タロットカードみたいだから12点あるとちょうどいいとか、そういう意見もあるかと思うが、壁面をぜいたくに使うなら、9点というのは悪くない(もし、応接セットをどかすことができたら、10点か11点あるといいかもしれない)。

 左は「アダルトベイビー(前向きな今日この頃)」。
 配色が晩秋っぽい。

 9点はいずれも配色が異なり、おもしろい。
 他の副題は次の通りだ。

 (魔女の証言)
 (愛の使者)
 (夜に遊ぶ)
 (孤立無援なんて)
 (愛のかけひき)
 (飛翔貴婦人)
 (王女の内乱)
 (かめさんの言い分)
 
 額の中にもう一つないし二つ、額のような縁取りがあるのがユニークだが、絵の端というのは処理の難しいものなので、こういうふうに縁取りをいくつも巡らせるのは、アイデアだと思う。

 なお、この部屋の入り口附近には「摩訶不思議」というF10号が架かっている。


 続いてC室。
 この部屋は、小品が並ぶ。筆者が見たことのない作品ばかりが30点以上陳列され、あいかわらず精力的な活動ぶりがうかがえる。



 次の絵は「哲学する僕」。



 繰り返しになるが、櫻井さんの絵は、なにが描いてあるのかよくわからない。しかし、それが楽しい。
 平滑で、空想的な生きもの。だが、これ見よがしなシュールレアリスムとも違う。もう、櫻井さんの絵としか言いようのない世界なんだと思う。




2013年11月11日(月)~16日(土)10:00~6:00(最終日~5:00)
札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3 地図A

参考 http://www.stvkohatu.co.jp/entransart/exhibition/2007/037sakuraimachiko/sakuraimachikom.html

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