40代から始まる聴力低下 会議で「聞き間違い」が増えたら要注意!
第1回 失われた聴力の再生は困難だからこそ「予防」が重要
柳本操=ライター
「普段の会話は問題ないのに、会議や会食など大人数の席では人の話が聞き取りにくい」。こんな経験が増えてきたら「加齢性難聴」が始まっているかもしれない。聴力は40~50代から低下し始め、65歳以降にさらに低下するケースが多い。難聴は「聞こえの低下」だけにとどまらず、認知症やうつなどとの関わりも深いことが分かってきた。加齢性難聴に気づくには? 進行を抑える有効な対策はあるのだろうか。愛知医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座特任教授の内田育恵氏に、3回にわたって聞いていく。
『「聞こえにくさ」を放置しない』 特集の内容
- 第1回40代から始まる聴力低下 会議で「聞き間違い」が増えたら要注意!←今回
- 第2回認知症の大きなリスク因子である「聴力低下」 うつや事故リスクも高める
- 第3回「聞こえ」に違和感?早めに受診を 補聴器選びのコツと耳を守る習慣
40~50代から始まり60代で急激に増える「聴力低下」
最近、ちょっとした会話のときに相手の言葉を聞き返したり、聞き間違えたりすることが増えてきた、と気になっている人はいないだろうか。
「普段の会話では特に支障がないから大丈夫、と思っている方でも、会議や会食など周囲に多くの人がいてザワザワした環境で聞き取りにくさを感じ始めたら、加齢性難聴の始まりかもしれません」と愛知医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座特任教授の内田育恵氏は指摘する。
加齢性難聴とは、
● 耳の病気など、“加齢”以外の特別な原因がない
● 左右差はほとんどない
● 高音域から聞き取りにくくなる
ことを特徴とする「聞き取りにくさ」のことを言う。
内田氏らが行った疫学調査では、65歳で難聴有病率は急激に増加し、70~74歳では男性で5割、女性で4割、75~79歳では男女とも約7割が難聴に該当していた。グラフを見ても分かるように、同年代でも男性のほうが女性に比べて聴力が低下する率が高い傾向がある(グラフ)。
「近年、聞き取りづらさがあると、認知障害や糖尿病、フレイル、うつ、転倒などのリスクが高くなることも分かってきました。『ときどき聞こえづらいけれど、日常生活に支障はないから大丈夫』と軽く見たり、『多少聞きづらくても補聴器など使わずに頑張っていれば耳が鍛えられる』と思い込んで大きな音やノイズを含んだ質の悪い音を聞き続けたりすると、かえって、聴力低下のスピードが速まり、さまざまな病気のリスクを高める可能性があります」(内田氏)
加齢性難聴はなぜ起こり、どのような症状が表れるのか。進行を抑えるにはどのような対策が有効なのか。本特集では、知っているようで知らなかった加齢による聴力低下のメカニズムと、「聞こえにくさ」がもたらす健康リスクについて詳しく聞いていく。