これまで20件の無罪判決を取られたことで有名な,大阪の後藤貞人弁護士が,岡山に来られて,岡山弁護士会で講演をしてくださいました。



講演の内容は,今年平成22年4月27日に出ました,最高裁判決についてのものです。後藤貞人弁護士が弁護人を務められた事件です。



殺人で起訴されたものの,事実を否認している事件についてのものです。直接的な証拠がなく,いわゆる間接的な証拠の積み重ねで,犯人が被告人であることを証明できるか,が争点です。



第一審の大阪地裁は有罪判決を下し,無期懲役判決,双方控訴後の大阪高裁は死刑判決を下していました。



最高裁はそれに対して,「間接証拠から有罪を認定するためには,被告人が犯人でないとしたならば合理的に説明できない事実が含まれていなければならない」として,原判決を破棄し,事件を大阪地裁に差し戻したのでした。



この判決によって,今後の刑事訴訟実務は大きな影響を受けることになります。例えば,覚せい剤所持で起訴されている被告人につき,覚せい剤の認識を有していたことを間接証拠から証明しようとすれば,単に疑わしいだけでなく,その認識を有していなかったならば合理的に説明できない事実が必要となるからです。



以前,司法権は「人は過ちを犯すものである」という観点から,司法試験に合格した人をあえて3つの役割に分け,それぞれの立場から光りを当てる,というお話をしました。また,DNA鑑定の飯塚事件からは,「無罪推定の原則も,過ちを犯す人がそれでも人を裁かなければならないことから,無罪の人が1人もでないように定められた方原則であり,私たちは,その適用がゆるめられていないか,もう一度検討が必要ではないか」というお話をしました。



そのような観点からすると,上述した最高裁平成22年4月27日判決は,その「無罪推定の原則」の適用を厳格にするものです。最高裁の新しい判断に,そして,その判断を導き出した後藤貞人さんのお話に,大変感銘を受けた夜となりました。