OS X Mavericks、無料でいいの? アップルにとってのメリットは

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  • author 福田ミホ
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OS X Mavericks、無料でいいの? アップルにとってのメリットは

目先の売上じゃなく、エコシステム全体での利益。

22日のイベントで、アップルOS X Mavericksを無料で公開すると発表しました。素晴らしいことです。でもその恩恵を受けるのは、我々ユーザーだけじゃなく、アップル自身でもあるはずです。

Mavericksの無料化は、一見シンプルなアイデアのように見えるかもしれません。でも実際アップルにとっては複雑だったはずです。Mavericksの開発にはコストがかかってて、有料にすればそのコストをカバーできただろうに、そうしなかったんです。さらにOSの巨大ファイルをダウンロードさせるためのコストがかからないので既存のMacユーザーほとんどがアップデートすると思われます。そうするとますます負担がかかりますよね。そう、Mavericksは我々にとっては無料でも、アップル側ではたくさんお金がかかってるんです。

でもアップルは大丈夫です。彼らは大きな戦略として、あえてMavericksを無料にしたんです。そしてそれは、ユーザーにとってはもちろん、アップルにとっても良いことであり、必然でもあるんです。

僕らがうれしい理由

なんたって、無料です。それは我々のお財布にうれしいだけじゃありません。真のメリットは、みんながMavericksにアップデートして、同じ環境になるってことです。

エコシステム内の全デバイスを同世代にそろえると何が良いかって、アップル自身を見ればわかります。たとえばiPhoneやiPadでは、アップデートを意図的に止めない限り、みんな同じOSを使うことになります。そしてこの「みんな同じ」の状態は、iOSとApp Storeの強みのひとつとなっています。逆にデバイス間でソフトウェアがバラバラになっているAndroidデメリットを考えると、アップルのねらいがさらにわかります。

Mavericks無料化によって、Mac向けの開発は今までより楽になるはずです。デベロッパーは、ハードの差は多少あるとはいえ、みんなが同じOSを使っていることを前提に開発しやすくなるからです。今までみたいに過去バージョンも含めたいろんなOS X向けに開発するんじゃなく、最新OS X向けだけに開発すればOKになります。つまりその分、個々のアプリのクオリティを高めたり、より多くのアプリを開発したりが可能になり、Webサイトやサービスでもスマートな通知といった新OSの機能を活用できます。

アプリといえば、iLifeiWorkにも無料の新バージョンが登場し、インターフェースは刷新、クラウドで同期しての作業も可能になりました。これに関してもMavericks同様、自分が無料で使えるってだけでなく、みんなが同じくこれを使うようになること、そしてそれをお互い認識し合えることがメリットです。これできっと、何か共同作業するとき、Google Docsと同じくらい自然にiWorkが使われるようになります。みんながiOSを使っているからiMessageが便利であるように、iLifeやiWorkもMavericksを使う人みんなが使ってより便利になることでしょう。

そして、「みんなと同じアプリを無料で使える」ってことで、Macがなおさら便利になります。MacにiPhoneにiPadに、それぞれナイスに連携しあって、その連携を意識する必要すらないんです。つまりソフトウェア無料化によって、ハードウェアも含めたアップルのエコシステムに囲い込まれる大きな理由ができたんです。そしてすでにそのエコシステムに入っているユーザーにとっても、今受けている恩恵がさらに大きくなるんです。

アップルにとってのメリット

無料のMavericksがユーザーにとってうれしいのは当然として、アップルにとっても大きなメリットがあります。目先の売上は減りますが、大事なのは長期的な戦略です。

アップルはつねに、ユーザー環境細分化との聖戦に身を捧げてきました。そして今回Mavericksで、Snow Leopard以降のMacユーザーをひとつにまとめることができ、今後も一体として扱いながら、未来へと導けるようになったんです。基本的にアップルにとってのユーザーとは、最新のiOSユーザーか、最新のOS Xユーザーか、それだけになったんです。

アップルがOS Xユーザーをひとつにまとめたことで、彼らをiLifeに誘導しやすくなりました。アップルから新たにハードウェアを買えばみんなが使うiLifeとiWorkのクラウド機能は、ユーザー囲い込みの手段として超有効です。そしてMavericksが無料だからってことで、ユーザーがiCloudの容量をちょっと増やそうものなら、ますます忠誠心の高いアップルユーザーの誕生です。

アップルが目先の売上を捨てたのは、乱心でも損でも何でもなく、アップルが今までも理想としてきたことを新しい方法で表現しただけなんです。アップルが目指すのは、ユーザーにとって優れた一貫性のある世界を作り出すことです。そしてその世界では、ユーザーもアップルも、みんながハッピーなんです。

来るべくして来た無料

Macの終わりは近づいていて、今回のアップデートはその近未来を認める動きでもありました。Mavericksそのものを見ても、iOSとOS Xの統合は必ずしも当然だとは感じられません。でもその統合はいつか起こるはずで、そうなったときのOS X(またはその時点での呼び名)のアップデートは無料になることでしょう。

するとアップルは、これから一切有料でのOSアップデートをしないんでしょうか? これはいわばとどめの一撃です。有料OSアップデートは、ここ数年価格が下がってきていきました。また、上記のようにOS XとiOSが統合していくとすれば、値付けもモバイルとそろえていくのが自然であり、モバイルOSは通常無料です。

マイクロソフトも同様の動きを見せています。Windows 8.1はOSアップデートとサービスパックの中間的存在で、Windows 8ユーザーには無料提供されています。でももっと先を考えると、Windows 9は有料になるんでしょうか? デスクトップのアップグレードにお金がかかるのはアリだとしても、たとえばSurface 2向けのWindows 9 RTのアップグレードは有料にできるでしょうか?

マイクロソフトもアップルも同じ方向に進んでいて、ただアップルの方がタイミング的に先行しています。iOSとOS Xが統合する頃には、我々はアップグレードのサイクルや価格スキームを考える必要もなくなっていることでしょう。そこにはただ一連のデバイス、大きいのや小さいのや、キーボードありやなしや、そんなのがみんな連携して動いて、みんな一緒にアップグレードするんです。それも、無料で。

ソフトウェアを無料にして失うものは、アップルにとってはそんなに大きくありません。アップルはその美しくも高利益率のハードウェアで儲けを作ればいいんです。だからiPhone 5sが廉価版のiPhone 5cより(察するに)売れてるんです。だから低スペック高価格のミニタブレットだって、何千万台も売れるんです。だから新しいRetina iPad miniは、同等の競合タブレットが230ドル(約2万2000円)でも、400ドル(約3万9000円)の値が付くんです。そして結局、売れてしまうんです。

だからアップルには、ソフトウェアを売る必要がないんです。そして彼らがソフトウェアからの利益を手放すことでMacの価値がより高まるなら、そしてそれが今も将来も続くなら、みんながハッピーになります。

Eric Limer(原文/miho)