名張毒ぶどう酒事件、再審認めず 最高裁「新証拠に当たらず」
三重県名張市で1961年、女性5人が死亡した「名張毒ぶどう酒事件」の第7次再審請求の特別抗告審で、最高裁第1小法廷(桜井龍子裁判長)は17日までに、殺人罪などで死刑が確定した奥西勝死刑囚(87)の特別抗告を棄却する決定をした。弁護側が提出した新証拠について、無罪を言い渡すべき明らかな証拠には当たらないと判断した。
名古屋高裁がいったん認めた再審開始を同高裁の別の部が覆し、最高裁がさらに差し戻すなど、異例の経過をたどった審理。2002年の第7次再審請求から約11年を経て、再審開始を認めない司法判断が確定した。決定は16日付。4人の裁判官全員一致の意見。最高検次長検事を務めた横田尤孝裁判官は審理を回避した。
差し戻し後の審理では、犯行に使われたぶどう酒の残留毒物が、奥西死刑囚が自白した農薬と一致するかが争点だった。弁護側は、事件に使われたとされる「ニッカリンT」からは特有の副生成物が検出されると主張。事件当時の鑑定でこの副生成物は検出されておらず、「毒物は別の薬で、自白は強制されたもので虚偽」と訴えた。
名古屋高裁が差し戻し審で再鑑定を実施。ニッカリンTの場合でも、抽出の手法などによっては副生成物が検出されない可能性があることが判明した。高裁は「ニッカリンTを使った」とする奥西死刑囚の自白内容と、副生成物が検出されなかった当時の鑑定結果に矛盾はないと判断し、再審請求を退けた。
今回の決定で同小法廷は、この高裁判断をおおむね踏襲し、弁護側の新証拠は「事件に使われた毒物がニッカリンTであることと矛盾しない」と判断。奥西死刑囚がニッカリンTを自宅に保管していたという事情や、当時の自白調書の信用性に「影響を及ぼすものではない」として、刑事訴訟法が再審開始理由と定める「無罪を言い渡すべきことが明らかな証拠」には当たらないと結論づけた。