8月13日、チャールズ・ダーウィン財団の海洋生態学者ペラーヨ・サリナス氏は、ガラパゴス国立公園のパトロール船での12日間の研究ミッションを終えて帰途についたところだった。午前6時、船長がレーダーで一隻の船舶を探知した。この海域への立ち入りは制限されているため、彼らはその船に何をしているのかと無線で呼びかけた。(参考記事:「深海の最新写真10点、奇妙で神秘的なガラパゴス沖」)
返事はなかった。サリナス氏と同船に乗り組んでいたエクアドル海軍士官は、再度無線で呼びかけた。やはり返事はなかった。さらに彼らは、法律により応答する義務があると警告したが、返ってきたのは沈黙だった。
そこで、サリナス氏と3人の乗組員は全長4メートルのゴムボートに飛び乗り、逃げ出した船を追跡しはじめた。船は中国船で、密漁への関与が強く疑われた。
ガラパゴス国立公園のこの海域は、一切の漁業が禁じられている海洋保護区だが、世界で最もサメが多い海域でもあるため、アジア向けのサメのヒレ(フカヒレ)と肉を狙った密漁が後を絶たない。サメの個体数は世界的に減少傾向にあり、サメ・エイ類の25%以上が絶滅の危機に瀕している。(参考記事:「ガラパゴスに全面禁漁区、フカヒレ密漁の増加受け」)
小さなゴムボートでは逃走する中国船に追いつくことができなかったため、サリナス氏らは追跡を諦めてガラパゴス国立公園の本部に報告した。
報告を受けてパークレンジャーとともに出動したエクアドル海軍のヘリコプターと沿岸警備隊の船は、その日のうちに中国船籍「フー・ユアン・ユー・レン 999」に追いついた。そこには驚くべき積荷が待っていた。
「1万は多いとしても、数千匹ものサメがいました」とサリナス氏。「前代未聞の数です。押収されたサメの量としては、ガラパゴス史上最多であることは間違いありません」
20人の乗組員は逮捕され、エクアドル当局は船の積荷を精査する予定だ。海洋保護区の海域を許可なく横断することは違法であり、そこでサメを捕獲、売買、輸送することも違法である。エクアドル環境省の声明によると、当局はまだ、このサメが捕獲された場所を特定できていないという。(参考記事:「キャビア目当ての密漁で米国のチョウザメ危機」)
サリナス氏はこの船について、漁船と船団を組んでいる母船で、小型の漁船が魚を獲り続けられるように漁獲をとりまとめる冷蔵運搬船なのではないかと推測している。この船の全長は90メートル以上もあり、貨物室が6個あって、そのいくつかがすでに満杯になっていた。船の記録から、約300トンの積荷があることがわかっている。サリナス氏自身はまだ船内を見ていないが、貨物室内の写真から、マグロのほかに、絶滅危惧種のアカシュモクザメや、滑らかな皮膚をもつクロトガリザメが含まれているのがわかると言う。(参考記事:「ガラパゴスでのシュモクザメ調査」)