アフリカ、ケニアの北西部。トゥルカナ湖岸からほど近い赤い砂岩の大地に、謎のストーンサークルがある。広さは約700平方メートル。丸い石が円を描くように敷き詰められており、その中央を示すように複数の石柱が置かれている。(参考記事:「ネアンデルタール人の謎のストーンサークル発見」)
研究者が「ロサガム・ノース・ピラー」と呼ぶこの場所は、古来、絶えず変化する風景のなかで暮らす遊牧民たちにとって、位置を確かめる標識のような役割を果たしてきた。
今回、国際研究チームがこのストーンサークルの謎に満ちた構造と内容物について詳しい調査を実施。この場所がおよそ5000年前に造られた埋葬塚であり、遊牧民が何世代にもわたって死者を葬っていたらしいとする研究成果を、8月20日付け学術誌『米国科学アカデミー紀要』に発表した。
ロサガム・ノース・ピラーはこの一帯で最も古く、最も大きな埋葬地だ。発掘が行われたのはごく一部だが、それでもすでに当時の財宝が多数出土している。
「ここは実に革新的な遺跡です」と、米ワシントン大学の考古学者であるフィオナ・マーシャル氏。古代の遊牧民の生と死について知る貴重な手がかりだと言う。(参考記事:「【動画】3000年前の太陽の祭壇、中国北西部で発掘」)
ネズミの歯の頭飾り、カバの牙の腕輪
ナショナル ジオグラフィックの支援を受けた研究者らは、遺跡で見つかった木炭とダチョウの卵から年代を調べた。また地中レーダーを使って地下構造の調査を行った後、約4平方メートルの区画を発掘し、その内容物を記録した。
発掘によって判明したのは、整地された砂の下にあるやわらかい岩盤に、古代の人々が広さ約120平方メートル、深さ1メートルほどの埋葬用の穴を掘っていたことだ。穴の壁は板状の砂岩を使って支えている。
そこには女性、男性、若者、赤ん坊など、さまざまな人が埋葬されていた。一見したところ、配置は年齢や社会的な地位などに関係なく決められているようで、遺体と一緒に埋められている品々も等しく配分されている。今回発掘が行われたごくわずかな区画だけでも、36体の遺体が見つかっており、塚全体では580体が埋葬されていると推定される。
論文著者の一人で、米フロリダ大学の人類学准教授であるキャサリン・グリロ氏は、遺体を飾る財宝にはそれぞれ個性を感じると述べている。「ゴージャスな緑色の」ネックレスを着けた遺体もあれば、カバの牙の腕輪や象牙の指輪を着けた遺体もあった。(参考記事:「2700年前の謎の黄金財宝、起源を解明」)
とりわけ目を引いたのは、405個のアレチネズミの歯でできた頭飾りだ。これを完成させるのには100匹の個体を要したと思われる。「こんなものが発見されたのは、わたしが知る限り初めてのことです」とグリロ氏は言う。アレチネズミは当時、家畜化されていなかった。つまり古代の遊牧民は罠を仕掛けてネズミを大量に捕まえたことになる。