日経サイエンス  2013年2月号

フロントランナー 挑む 第23回

ヒッグス粒子を追い求めて:浅井祥仁

中島林彦(編集部)

巨大検出器から生みだされる天文学的な量の実験データを探索し

万物に質量を与える素粒子をついに発見した

 

 

 「言葉にならない」。2012年7月4日,万物に質量を与えるヒッグス粒子とみられる新粒子の発見が,スイス・ジュネーブ近郊の欧州合同原子核研究機構(CERN)で大々的に発表された。長年,ヒッグス探索の最前線に立ってきた東京大学の浅井祥仁は感想を聞かれ,こう語った。   (文中敬称略)

 

 浅井が担当する講義などの教務は月曜に集中している。夜,講義が終わると飛行機に乗りジュネーブに向かう。いつも同じ便,後方窓側の同じ座席。着席したとたんに眠りに入り,機中では食事も取らずに熟睡,パリで乗り継いで現地時間の火曜朝にはジュネーブ空港にほど近いCERNの研究室で仕事を始める。日曜朝に帰国し,月曜夜に再びジュネーブへ。月の半分くらいはそんな生活がずっと続いている。

 CERNは世界の素粒子研究の中心だ。地下約100m,山手線ほどもある円形トンネル内では,史上最強の加速器である大型ハドロン衝突型加速器LHCが稼働中で,そのLHCを用いた国際共同実験,ATLASとCMSが競い合う形で進んでいる。いずれも約3000人の研究者が加わる巨大プロジェクト。ヒッグス発見は両グループにとって最初の大成果だ。

 

 

再録:「フロントランナー 挑戦する科学者」

再録:別冊日経サイエンス203「ヒッグスを超えて ポスト標準理論の素粒子物理学」

浅井祥仁(あさい・しょうじ)
東京大学大学院理学系研究科准教授。1967年石川県生まれ。高校時代,10cm反射望遠鏡を焦点距離1万2500mmのものに改造し(もとの焦点距離1000mm),惑星観察に熱中,天文学者を夢見て東京大学に入る。入学後も星雲や星団の観測に熱を上げるが, 「朝から晩まで星のことを考えていたら,星が嫌いになってしまうのでは」と思い素粒子物理学の道へ。1995年東京大学理学系研究科博士課程修了。同大学素粒子物理国際研究センター准教授などを経て2007年から現職。趣味は機械いじり。自分で改造した望遠鏡で星を見ること。

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