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■生息と制作-北海道に於けるアーティスト、表現・身体・生活から 2013Mar.東京(12) 4月10日まで

2013年04月04日 21時41分56秒 | 展覧会の紹介-複数ジャンル
 道内在住、ゆかりの7人によるグループ展。
 横浜在住で美術館に勤務している大下裕司さんが、札幌の若手を代表する作家のひとり森本めぐみさん(今回出品もしています)と、ツイッターなどで会話しているうちに構想が膨らみ、数年越しで実現した展覧会だそうです。
 企画は大下さんと森本さんが名を連ねています。

 展覧会の概要、狙いについては、会場の新宿眼科画廊のサイトにありますので、そちらを読んでいただければ幸いです。

 大下さんはもともとアイヌ民族の知り合いがおり、その関係で北海道を旅行しているうちに、美術史を学んでいる学生として道内の美術シーンが気になりはじめ、最近は年に何度も札幌を訪れて展覧会を見て回っています(たぶん、筆者よりもよく見ていると思います)。
 北海道といえば、大自然、おいしい食べ物がまず脳裡のう り にうかび、そこに現代美術を含む美術シーンがあるとは最初想像もしていなかったと、大下さんは正直に告白していました。
(このブログの読者の多くにとっては、札幌に美術シーンが半世紀以上も前からあることは自明ですが、そもそも首都圏の美術関係者にとって北海道にギャラリーや美術館があり多くの作家がいるということじたい想像もつかないのでしょう。それについては、何度かこのブログで書いた記憶があります)

 出品作家はいずれも若手です。

石倉美萌菜 http://fukutaroh.exblog.jp/

小林麻美 http://www.kobayashi-asami.com/

佐々木恒雄 http://tsuneosasaki.com/

中村絵美 http://www.muu.in/nakamuraemi/

藤谷康晴 http://f-y-drawing.com/

森本めぐみ http://mercyard.exblog.jp/

Rady Wolf http://garm.okitsune.com/
http://rady.blog41.fc2.com/

 このうち、Rady Wolf(らでぃ・うるふ)さんについて筆者は全く知りませんでした。
 それも、無理のないことで、彼女は帯広を拠点(現在は東京が拠点)に、着ぐるみをつくる人だったのです。アート業界とは関係のないところでさかんに活動していたのを、大下さんが知って、今回出品を依頼したのだそうです。
 この人選は、オープニングセレモニーを見た限りでは大成功。オオカミの着ぐるみ(「干し狼」という作品です)をまとった彼女が画廊に寝そべると、道行く人がギョッとして画廊をのぞき見していました。台湾(?)からの観光団体が足を止めて、さかんに携帯電話で写真を撮る一幕もありました。

 藤谷さんは、札幌の隣町の石狩市在住。
 ペンと水彩で、細密な、独特のドローイングを制作します。
 今回の「SIGHT」などは掛け軸に仕立ててあります。計画的に造られたため道路が直線になっている道内の都市の形状をじっくりと模したかのような作品です。

 小林さんは、若手を代表する画家として、個展や、「絵画の場合」などのグループ展で精力的に制作・発表してきました。
 身近なものを通して視覚の作用を問うような絵画が多いのですが、今回はこれまでに増して、網目が前面に出た抽象的な画風の作が展示されています。

 石倉さんについては、筆者は、グループ展しか実見しておらず、正直なところそのときはあまり気にとめていませんでした。
 筆者が札幌を離れた後にCAI 02で開催した個展がとても好評だったことは、耳に入っていました。
 今回は絵画2点と、募金箱を模した立体1点を出しています。「すごろく 2011.9.28-2012.4.1」は、要するに日記で、文字ばかりが描かれた絵画なのですが、さし絵のように配された大型店の外観などが、現代日本を均質化していく「郊外の風景」を表象しています。日記の文言は、グループ「チョメチョメラビリンス」時代と同様、自分の失敗などをつづった自虐的笑い路線です。
 募金箱は2層構造になっていて、上半分は石倉美萌菜募金、その底に開いたいくつもの穴をすり抜けた硬貨が下半分の東日本大震災の募金に行くようになっています。

 森本さんは、札幌近郊の恵庭が実家。
 そこの恵庭岳に着想を得て、室内の風景に置き換えた絵画「布団山」シリーズの1点(ほかに小品2点)を展示しています。
 森本さんは「ハレンチちゃん」が登場する絵画作品でアクリルアワードのグランプリに輝く一方で、現代美術的なアプローチの作品も数多く発表し、10代から札幌の美術シーンの一線で活躍しているわけですが、う~ん、正直なところ、筆者にはいまのところピンときていません。
 ただ、アーティストトークでだれかが指摘していたように、彼女の作品には性的な意味合いをもつものがけっこうあり、布団というモティーフもそこから読み解けるのかもしれません。

 佐々木さんは札幌で、クラブイベントのフライヤーをデザインするなど、一般的なアートのシーンとはやや異なるフィールドで活動しつつ、個展なども開いてきた人ですが、近年は故郷の網走に戻って、漁師をしながら、あいた時間に絵画制作に取り組んでいます。
 今回は、小品とはいえ10点余りを展示。抽象的なものから、若者たちが番屋の前で坐っている情景まで、バラエティーに富んでいます。
 流氷や知床連山を描いた作品について、佐々木さんは、ステレオタイプなものだと受け取られないかと心配していたようですが、逆に、このグループ展の顔ぶれのなかでは、鑑賞者が北海道という意味の中に入る入り口になりうるように感じました。東京の人間にとってエキゾチックなものが、自身にとってはリアリティーのある風景であるということは、なかなか興味深い現象だと思います。

 中村さんは故郷の渡島管内長万部町などでのシカ猟などを題材にした映像作品を発表しました。
 その映像はほとんど編集されておらず、車窓から見えた山の風景が淡々と流れ、最後に猟銃の乾いた音がします。
 ほかに、雪の動画と、川霧を撮った写真各1点が展示されています。

 らでぃさんは、先ほども述べたように初見です。
 「干し狼」と題された着ぐるみは、ぱっと見には、縛られたオオカミの剥製にしか見えません。こんなにリアルな着ぐるみを、彼女は場合によっては3日ほどで制作してしまうというから、驚きです。
 彼女は自ら着ぐるみの中に入ります。それは、見る人との、一般的なものとは異なる、別のかたちのコミュニケーションのスタイルだともいえそうです。


 非常に長文になってしまったので、続きは別項とします。

 ただ、その前にちょっと書いておきたいのは、筆者はこの展覧会を客観的に見ることがどうにも難しいということです。
 もちろん、たくさんの人に見てほしい。でも、おそらく、各作家にとって「ピーク」に近い水準の作品が来ていると筆者が言えるのは(実作を見たことの少ない石倉さんとらでぃさんをのぞいては)佐々木さんぐらいで、あとの4人については
「この人の実力は、こんなもんじゃないよね。この1、2点だけで判断してもらってはちょっと困るよなあ」
という気がしてきて、あらためて、グループ展を組織することの困難さを感じてしまうのです。


2013年3月29日(金)~4月10日(水)12:00~20:00(水曜日~17:00) *木曜休廊
新宿眼科画廊(新宿区新宿5-18-11)

3月30日(土) 14:00~15:30 アーティストトーク / 18:00~20:00 レセプションパーティー
4月06日(土) 藤谷康晴によるライブドローイング(18時頃からを予定)




・地下鉄都営新宿線・東京メトロ丸ノ内線「新宿三丁目」駅のE1出口から約170メートル、徒歩3分(改札口からは8分ぐらいかかりそう)
・西武新宿駅から約710メートル、徒歩9分
・JR新宿駅、丸ノ内線新宿駅から約760メートル、徒歩10分


関連記事へのリンク
SAG Introduction II (2009=小林さんが出品)

北海道教育大学卒業制作展(2011=中村さん、森本さんが出品)

【告知】藤谷康晴 覚醒庵~ドローイング伽藍~ (2011)

置戸コンテンポラリーアート(2012=佐々木さんが出品)


(以下別項) 


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