2010年、米国のDVDレンタル業界の最大手、ブロックバスターと、業界第2位だったムービーギャラリーが相次いで経営破綻した。その結果、1980年代から米国人の生活の一部となっていたビデオやDVDのレンタルショップは、町からすっかり姿を消してしまった。

 レンタル業界が急速に落ち目になったのは、映像ストリーミングサービスの台頭が原因だ。米国では「DVDはすでに古い」というイメージになりつつある。

 現在ストリーミングサービスの最大手会社はネットフリックスである。米国内だけでも2700万人が利用している。ネット通販サイトのアマゾンも、映像ストリーミングサービスを開始した。他にも、急成長しつつあるストリーミング業界に参入しようとしている会社は数社ある。

 この2月、ストリーミング業界の先頭を走るネットフリックスが、ある試みを行った。この出来事が、「テレビ界に挑戦状を叩きつけた」としてメディア業界で大きな話題になった。

 その試みとは、有名映画監督と大スターを起用して、独自の連続ドラマを、ネットフリックスのストリーミングを利用しているメンバーのみに公開したのだ。

 時間帯の制限もなし。視聴率も関係なし。スポンサーに気を遣うこともなければ、コマーシャルで話が中断される心配もない。さらには、各ストーリーの長さも柔軟に決めてよい。テレビドラマにつきものの様々な制限を取り除き、制作サイドにとっては夢のような環境を提供したのだ。

 この連続ドラマ公開以来、ネットフリックスの担当者の電話は鳴りっぱなしだという。有名無名の映画監督、プロデューサー、シナリオライターから企画が次々と持ち込まれているのだ。

視聴者が望むスタッフでドラマを制作

 ネットフリックスが公開したのは、「House of Cards」というオリジナル連続ドラマである。

 監督は「セブン」「ファイトクラブ」「ソーシャル・ネットワーク」などの映画で知られるデビッド・フィンチャー。主演はケビン・スペーシー。米国議会を舞台に、スペーシー演ずる議員が、自分を裏切った大統領とその補佐官らに、巧妙な復讐を仕掛けるというストーリーだ。