クリスマスイブに最終回を迎えた、木村拓哉さん主演の月9ドラマ「PRICELESS〜あるわけねぇだろ、んなもん!〜」、18.7%とまずまずの視聴率でしたね。
おうちクリスマスイブを過ごした方たちは、19時からのフィギュアスケートから続けて見てしまったことでしょう。

キムタクこと木村拓哉さんの主演ドラマは、近年なぜか多くの人たちが、なんぼのもんじゃい? と斜に構えて見てしまいがちですが、多くの辛口テレビウォッチャーのツッコミどころをなるべく交わす寓話的作品に仕上がっていたと思います。
身に覚えのない罪により会社を解雇された上に自宅も爆破されて、家無し文無しになった主人公・金田一二三男がゼロから再出発をはじめます。明るく前向きな人間力を発揮しながら、出会った人たちと絆を深め、たくさんの人たちに支持されていくという、素朴で善意にあふれた話ですから、イジワルな気持ちは発動できないですね。見事な守りで最後まで進行したドラマでした。
ではもう少し細かく勝因を考えてみましょう。

1:いきなり自分でツッコンでいた。

「PRICELESS〜あるわけねぇだろ、んなもん!〜」というタイトルです。PRICELESSというキレイごとなんかないと制作側自らがツッコみ、視聴者にツッコむ間を与えませんでした。
もちろん、結果的には「でもあるんだよ」というところを感じさせるのが狙いではあったと思います。
そして、この「あるわけねぇだろ、んなもん!」はあらゆることに有効な魔法ワードです。何があっても「あるわけねぇだろ、んなもん!」と言ってしまえばいいのです。例え、ご都合主義な展開になっても「あるわけねぇだろ、んなもん!」で済んじゃいます。
これ、最強。

2:木村拓哉さんがかわいそうな役だった。
木村拓哉さん演じる金田一二三男(きんだいちふみお)が、第一話からいきなり勤めていた会社・ミラクル魔法瓶を解雇になり、貧乏なアパートに転がり込んで、苦労していきます。
かっこいい人に嫉妬する人には、これからどんな苦労をしていくか見てやろうという気持ちに、かっこいい人が好きな人は、かわいそうとますます熱い視線を注ぎました。

3:金田一という名前はテッパン。
フジテレビ火曜のドラマ「リーガルハイ」で金田一耕助ミステリーのパロディ予告編をやったら視聴率がぐっと上がったことがありますし、金田一耕助を思わせる名前には神通力があるのかもしれません。

また、金田一が「カネダイチ」→「金第一」にも連想できるのも皮肉が利いていました。

4:木村拓哉さん(金田一)がサードのポジションだった。
木村拓哉さん演じる金田一は、会社の野球部に所属していて「サード」だったという設定です。広島の北別府学のファンという設定ですが当人はエースピッチャーではないのです。
今までの木村拓哉さんだったらピッチャー設定だったのではないでしょうか。今回はそういう華やかな感じじゃなくて、堅実な印象のあるサードです。

金田一さんは、第8話では、大切な接待の時に、炊き出しにつれていってしまう(結果、それが喜ばれる)ほど素朴な役でした。

5:貧乏から脱出していく話に希望があった。
不況だ不況だと言われる中、恋しておしゃれして素敵な家に住んで、という物語が空疎なものと思う人も増えてきた中、金田一さんは、幸福荘と名前は素敵ですが、実のところ風呂なしアパート生活の日々です。
といって、永遠にそうだと気持ちも滅入るものですが、金田一さんは、たまたま手に入れた屋台でホットドッグ屋をはじめ、それがまわりまわって、究極の魔法瓶開発業(ハピネス魔法瓶を設立)をはじめます。魔法瓶は、解雇になった会社でも扱っていた商品なので競争にもなりますが、金田一さんは知恵と不屈の努力と誠意で乗り切っていきます。

6:木村拓哉さん、中井貴一さん、香里奈さんのトリプルプレー。

金田一さんには、中井貴一さん演じる、誠実で仕事熱心な模合謙吾さんと、香里奈さん演じる、食玩フィギュア戦国武将コレクターで、抜群に経理の才能がある二階堂彩矢さんという仲間がいます。ふたりとも、元ミラクル魔法瓶の社員でしたが、金田一さんの生き方に共感し、行動をともにしていくことになります。
3人は幸福荘の狭い一室で川の字で眠るほど密な関係です(単に貧乏なだけ)。
金田一さんと彩矢の間には微妙な恋心も匂わせる部分はありますが、決定的なところを最後まで描くことはありませんでした。
木村拓哉さん主演の月9ドラマで、ここまで恋愛にプライオリティーが高くなかった作品ははじめてではないでしょうか。
木村拓哉さん、中井貴一さん、香里奈さんが、とてもアップテンポに明確な演技のキャッチボールをし続けるので、見ていて気分がどんどん上がっていって、恋愛がなくても全然楽しいのです。

これまでの木村拓哉さん主演ドラマは、よくも悪くも木村さんのひとり舞台という印象が強かったのですが、今回はチームプレーをやりつつ、決めるとこはひとりで決めるという、バランスのいい感じになってました。
もっとも、SMAPというグループに所属しているわけですから、チームプレー
は得意なのだと思います。
なぜか、ひとり目立っているという印象を抱きがちですが、それもチームの中の役割を演じているに過ぎないんでしょうね、ということを今回改めて感じました。

7:ラブ少なめがいいらしい?
ラブ少なめ、会話の楽しいさっぱりすっきり系ドラマとはいえ、ただ、金田一さんには恋人・瑤子(蓮沸美沙子)がいて、彼女は徐々に彩矢と金田一さんに心が傾いていくことを感じて身を引くお話は切なかったです。
蓮沸美沙子さんがかわいかったからというのもありますが。いや、香里奈さんもかわいいいんですが(赤いメガネはマリ、「バッカじゃない」連呼はアスカか!という感じもして)。
そして、瑤子のお父さんが広瀬ファンドという大きな会社の社長(草刈正雄)で、ハピネス魔法瓶の進退に大きな影響を与えるという展開は、あるわけねぇだろ、んなもん! ではありましたが、それがドラマというものなのです。

8:主人公に秘密が。
そもそもなぜ金田一さんは会社を解雇になって、無一文からはじめることになったのか? それは出生の秘密によるものでした。
実は金田一さんは、ミラクル魔法瓶の先代社長の隠し子で、先代・大屋敷巌(中村敦夫)が死の間際、実子の大屋敷統一郎(藤木直人)に「社長を二三男に継がせる」と遺言を残していたのです。ところが統一郎は嫉妬からそれをもみ消して、自らが社長になってしまいます。
だから、金田一が路頭に迷っても決してへこたれず、立ち上がってきて、ついには優れた新作魔法瓶を作り上げてきた時には、とにかく潰そうと必死になるのでした。
この秘密は第一話から視聴者には明かされていて、いつこの秘密を金田一さんが知って逆転劇を起こすだろうと期待させる要因になりました。

9:兄弟愛にグッとくる。
最終回で、ワンマン統一郎の「社員は使い捨て」と言い切る態度に嫌気がさした社員たちは彼の元を去り、すべてを失った統一郎でしたが、父親の思いを知って(魔法瓶の特許申請日は統一郎の誕生日だった)、金田一と和解します。
ふたりが並んでぎこちなく炊き出しを食べてるところに、一話からずっと金田一を励ましてきた幼く貧しい兄弟・鞠丘貫太(まえだまえだの前田旺志郎)と両太(田中奏生)が現れて2対2で向き合う場面は、鏡のようで心温まります。
幼い兄弟を配置したことは、単に子役人気にあやかろうというわけではなかったのです。

10:友情努力で仲間を増やしていく。
そして、最も重要なものがこれです。
友情、努力、勝利は、有名なジャンプの法則ですが、それは元々の仲間が友情と努力で敵から勝利をもぎとっていく精神です。
さらに金田一さんは「結果よりも人とのつながりとか思いとかを大事にする」人で、友情と努力を大事にしながら、仲間をどんどん増やしていきます。
仲間を増やしていくところはONE PIECE的であります。
よく見れば、PRICELESSの中にPIECEという言葉も入っているじゃないですか。

第4話では、模合さんが「無駄なものを徹底的に排除する」という統一郎を批判して金田一さんの元に来くると、視聴率は15.2%から18.4%へ上昇。第8話では、2話でミラクルを辞め、金田一さんと行動をともにしていた二階堂彩矢(香里奈)が、自信をなくしてミラクルに戻ったものの「ビジネスは結果がすべて。プロセスなんか関係ありません」という社長に背を向け、再び金田一さんの元に戻ると、視聴率ははじめて20%を超えました。
ということから、仲間を大事にする金田一さんの元こそがユートピアで、それが視聴者の心を掴みます。
魔法瓶の部品などを手がける工場の人たちが誰ひとり欠けてもダメなんだと、最後までからだをはって守り続けた金田一さんの行動には、誰もが胸を打たれたことでしょう。
9話では、ミラクル魔法瓶の1507人もの社員が全員会社を辞めて、金田一さんの元へとやってきます。ものすごい人数の人たちが幸福荘を取り囲む場面は圧巻でした。

11:丁寧な構成で見せる。
昔ジェットコースタードラマという、超展開のドラマが受けたことがありましたが、昨今のドラマも意外性を追いかけるあまり、場当たり的な展開過ぎない?と思うものも見受けられる気がするのですが、「PRICELESS」は、1話から最終回までがキレイに円環を作って終わりました。
最初に、金田一が大切にしていた北別府のボールを鞠丘兄弟のために射的で使ってなくしてしまいましたが、最終回で・・・という展開は気持ちよかったです。
古家和尚さんはしっかりした構成の書ける優れた脚本家だと感じました。

12:生放送と煽る
最終回は90分拡大バージョンの上に生放送(しかも北海道)があるとのことで、期待が高まりました。
最後までラブ少なめ3人の話でまとまって、そして、最後の最後の22時18分頃から2分間ほど、その後の3人の姿と、聴者への最後のメッセージを生放送。
この時の、木村拓哉さん、中井貴一さん、香里奈さんが、短い時間の中で絶妙に息の合った巧みなチームプレーを発揮して、良き仲間こそPRICELESSという思いを噛み締めさせてくれました。
(木俣冬)