2012.12.30

宮台真司 × 安藤美冬 【第2回】
フラグを立て、価値を発信せよ
「どんなゲームにも順応できるのがノマド的な人です」

安藤 美冬
[左]宮台真司さん(社会学者、首都大学東京教授)、[右]安藤美冬さん(spree代表取締役/フリーランス)

【第1回】はこちらをご覧ください。

計画通りに進まないことを楽しむタイプ

宮台: 原発企業が1000人を超える社員を集めて、脱原発活動をする学者の講演に耳を傾ける。そういう姿勢って素敵です。

 人はステレオタイプを持つ動物です。会社・国・性別やそれに属する人に対し、学習された固定観念を持ちます。学習は個人的にも社会的にもなされます。

 僕らは固定観念をベースに予想したり計画したりします。でも実世界は固定観念とは違う。自分と違う固定観念を持つ人もたくさんいる。計画通りに行かなくて当たり前です。そうした期待外れは、世界を知る契機でもあります。計画通りに行かないことを楽しむべきです。

 ハイデガーが退屈を三分類しています。第一は、手持ちぶさたの退屈。第二は、楽しいパーティの退屈。第三は、世界の中に存在することの退屈。ハイデガーはこうした退屈を〈ここではないどこか〉を理性ゆえに観念する人間の本質として肯定します。

 本質かどうかは別に、計画通りということは、世界が自分の思考枠内に収まること。だから、つまらない。世界が自分の思考キャパを超えるのは自明です。なのに世界がそう現れないのは何かの間違いです。何かが計画通りに進むのは、何かの間違いなんです。

 美冬さんも、計画通り行かないことを楽しむタイプでしょ? ところが一部の人は「それは困る」となっちゃう。日本では最近、計画通りに行かないと困る〈計画厨〉が増えました。性愛や人倫の世界にまで計画通りを期待するヘタレだらけです。

安藤: 私もまだ人生経験は少ないんですが、会社を辞めて独立しようとなったとき、いくつかお誘いの話がなかったわけではないんです。たとえば「一緒に会社を立ち上げないか」とか「安藤さんが本を出したら一緒に仕事しよう」とか。ところが、実際に辞めて、一人で大海に出たときに、そういった話はどれもいつの間にか立ち消えになってしまって、私はすごく落ち込んだんです。

 今は何とかやっていますけど、会社を辞めた後は半年間まったく仕事がなくて、その後、ようやくちょっとしたコンサル的なお仕事で4万円をいただいたくらい。見かねた友達がお仕事を振ってくれて・・・。本当に「売れない芸人さんより暇なんじゃないか」と思ったくらいです。

 何もない半年間は、やることがなくて、外に出れば「安藤さん、最近何やってるの?」とか「仕事してるの?」と聞かれるので、それが怖くて。家でお布団を引っかぶって、ずっとフェイスブックやツイッターを見てたくらいなんです。

 でも、今振り返ってみると、たかだか1年半くらい前の話ですけど、「思い通りに行かなかったことに自分でOKを出せる」と思っています。ノマドの話とはちょっと違うかもしれませんけど、時間軸を未来に移して考えると、「当時、何も自分の思い通りにならなかったということが、実は自分には必要な経験だったのかな」って。

宮台: 思い通りにならないものをあえて引き寄せて前に進む。でも、それってノマドとは違うんですか? 美冬さんが「ノマド」という言葉でおっしゃったのはどういうことなんだろう? 「ノマド流仕事術」のことですか?

安藤: 私がノマドワークスタイルの中でこだわっているのは、ただ固定費をかけないとか、いろいろな場所で仕事をするとか、そういうことだけではないんです。時代の変化とか、自分の気持ちの変化とか、物事の変化に応じて身軽であり続けられることがポイントだと思っています。

宮台: つまり、ローリングストーンですね。

安藤: はい。転がる石のように生きていく。思い通りにならなければ、それはそれとして、大きな人生の流れに乗るような形で生きていく。そういうスピリットが、ノマドの本質的な大事なポイントの一つかなと思っています。

 たとえば私は洋服を30着しか持っていなくて、それ以外にもなるべく物を持たない、シンプルな暮らしをしようと考えています。家は一生買わずに賃貸にして、仕事場も2万5000円のシェアオフィスに一つデスクを持つだけ。仮に自分の心境が変わったり、何かが起きたりしたときに出口戦略を立てやすいように、そういうシンプルなワークスタイルを選んでいるわけです。

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