日経サイエンス  2008年11月号

巨大太陽嵐に備える

S. F. オーデンワルド(アメリカ・カトリック大学) J. L. グリーン(NASA)

 太陽の活動は,11年周期で活発になる。現在の活動周期は今年の1月に始まった。これから5年にわたり,太陽の活動は次第に活発化するはずだ。太陽表面では高エネルギー粒子と強いX線を発するフレア爆発や,磁場を伴うプラズマ雲の放出の回数が増えるだろう。これらの現象は「太陽嵐」と呼ばれている。

 

 太陽嵐の多くは“夕立”のようなもので,通常その影響は極地方でオーロラが舞うくらいのものだ。しかし,ときたま“台風”ように巨大なものが発生する。その最たるものが,1859年に起こった巨大太陽嵐だ。このとき,地球の磁場は大混乱し,欧米の電信システムが使用不能になった。

 

 1859年当時は技術文明が未発達だったため,巨大太陽嵐による被害はそれほど大きくなかった。しかし,このような規模の太陽嵐が今起きたとしたら……。人工衛星が損傷し,無線通信が不能になり,大規模な停電が起こるだろう。これらに頼る快適な現代生活を取り戻すのに数カ月もかかるかもしれない。

 

 太陽嵐の被害を抑えるには,宇宙天気予報の能力の向上が不可欠だ。米海洋大気局の宇宙天気予報センターは民間企業や政府機関に毎日,宇宙天気の情報を提供している(日本では情報通信研究機構の宇宙天気情報センターが予報業務を行っている)。現在の宇宙天気予報は,宇宙天気を専門にモニタリングする人工衛星ではなく,別の研究目的で打ち上げられたさまざまな人工衛星から送られてくるデータに依存している。その予報能力は,1950年代の地球の天気予報の能力程度に過ぎないと考えられている。

 

 1859年の巨大太陽嵐の半分程度の規模のものは50年に1度の頻度で起こるという。この規模の太陽嵐でさえ,その被害は大型ハリケーンや大地震に匹敵するとの試算もある。前回は1960年11月に起こった。次の巨大太陽嵐に備え,技術インフラを守りたいのなら,宇宙天気予報や基礎研究にもっと投資する必要があるだろう。

著者

Sten F. Odenwald / James L. Green

オーデンワルドはアメリカ・カトリック大学の天文学教授であり,メリーランド州グリーンベルトにあるSPシステムズ社の上級科学者。また,NASAゴダード宇宙飛行センターとの契約で科学普及のための著作活動を行い,賞を受けている。主な研究分野は宇宙赤外線背景放射と宇宙天気現象学だ。11歳のときに観たテレビ番組“The Outer Limits”で天文学への情熱に火がついた。グリーンはNASAの惑星科学部門長。惑星の磁気圏を研究しており,IMAGE(地球磁気圏監視衛星)計画にも参加している。歴史にも親しみ,アメリカ南北戦争時代(1861~1865年)の気球についての著作を準備中だ。この時代に関心があったことで1859年の太陽嵐に関する200以上の新聞記事に偶然出合うこととなった。

原題名

Bracing for a Solar Superstorm(SCIENTIFIC AMERICAN August 2008)

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