日経サイエンス  2006年3月号

核燃料完全リサイクルへの挑戦

W. H. ハヌム G. E. マーシュ G. S. スタンフォード(米国立アルゴンヌ研究所)

 一般の人々の間には,原子力の安全性に対する根強い懸念がある。しかし,大容量の発電を行う方法としては,原子力発電は最も環境負荷が少ないということは徐々に理解されるようになってきた。実際,ブラジル,中国,エジプト,フィンランド,インド,日本,パキスタン,ロシア,韓国,ベトナムなどでは,原子力発電所の建設計画がいくつもある。米国はこうした世界的な流れから取り残されており,新たな原子力発電所はこの30年建設されていない。

 

 しかし,賢い方法に基づいて原子力の開発を進めれば,原子力は真の意味で持続可能かつ実質的に無尽蔵,しかも気候変動を引き起こすことのないエネルギー源となるだろう。特に新しい技術を用いれば,現在の原子力発電が抱える主要な問題点を克服することができるはずだ。原子炉事故に対する懸念,核燃料が核兵器に転用される可能性,危険性が高く長期間放射線を出し続ける廃棄物の管理,採算に見合った採掘法で入手できるウランの減少などの問題に対処できるのだ。

 

 新しい核燃料サイクルは,2つの技術を組み合わせて実現する。使用済み燃料を再生する「高温冶金法」とそうして再生した燃料を燃やす新たな高速中性子炉(高速炉)だ。この方法なら発生する核廃棄物の放射能は数百年でかなり安全なレベルにまで低下し,現在とは違って数万年もの長期にわたって隔離する必要はない。

著者

William H. Hannum / Gerald E. Marsh / George S. Stanford

3人ともに,米エネルギー省アルゴンヌ研究所で高速炉の開発に当たっていた物理学者。ハヌムはエネルギー省で核物理の開発および原子炉の安全性の研究を指揮していた。また,経済協力開発機構(OECD)の原子力機関(NEA)の副総裁を務めたこともある。マーシュは米国物理学会フェロー。レーガン,ブッシュ,クリントンの各政権下で米国国防総省における戦略的核技術と政策に関する顧問を務めた。『The Phantom Defense: America's Pursuit of the Star Wars Illusion(Praeger Press)』の著者の1人でもある。スタンフォードは実験核物理・原子炉物理・高速炉の安全性を中心に研究していた。共著書に『Nuclear Shadowboxing: Contemporary Threats from Cold War Weaponry(Fidlar Doubleday)』がある。

原題名

Smarter Use of Nuclear Waste(SCIENTIFIC AMERICAN December 2005)

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