日米両首脳、普天間やTPPなど懸案先送り
信頼構築を最優先
【ワシントン=四方弘志】民主党政権初の公式訪米で実現した日米首脳会談は、両首脳の信頼関係の構築を最優先する内容となった。両国内に不満がくすぶる米軍普天間基地移設問題や環太平洋経済連携協定(TPP)問題では互いに深入りせず、懸案は相次ぎ先送りした。
「日米同盟が日本外交の基軸との信念を有している。共同声明を発表できることは大変喜ばしい」。首脳会談で口火を切ったのは野田佳彦首相だった。共同声明と在日米軍再編見直し計画の合意をあげ「同盟深化を前進させる」と成果を強調した。
ただ計画見直しで米軍のグアム移転と切り離された普天間基地問題では、名護市辺野古への移設に関しての言及はなかった。沖縄県の理解を得るための環境整備は進んでいない。昨年9月に就任したばかりの首相に大統領は「結果を出す時期が近づいている」と迫ったが、今回の首脳会談では詮索しなかった。
大統領側にも触れたくない事情が垣間見える。再編計画の見直しを巡って、米上院軍事委員会のレビン委員長(民主)らが普天間基地移設や海兵隊のグアム移転経費などの記述に不満を表明。基地建設予算に強い影響力を握る有力議員からの横やりを受けて文案を修正した。今後も議会との折衝は難航必至だ。
TPPも米国産牛肉の輸入問題も、大統領が今回の会談で首相に進展を促すはずだった。いずれも具体的な言及を避けたのは、台頭する中国をけん制するためにも、野田首相のもとでアジア太平洋地域での協力を確約したかったからだ。
TPPでは米国産業界の意向を紹介する形で、日本の自動車市場の開放への関心の高さを示した。大統領は11月の大統領選に向けて製造業を中心とした雇用創出を最大の公約に掲げる。主要製造業である米自動車産業の輸出促進をアピールできれば、再選へ大きな追い風となるからだ。
米国内では選挙を控え集票マシンとなる商工会議所や業界団体の意向が政策決定に強く反映されやすくなっている。TPPの焦点となる保険市場の開放や米国産牛肉輸入制限の緩和などを巡っても、米側は強い態度で臨まざるを得なくなっている。
2009年の政権交代で誕生した民主党政権下で日米関係は大きく傷付いた。鳩山政権は普天間問題の迷走で大統領が不信感を募らせ、修復を狙った菅政権は東日本大震災や国内政局で公式訪米を先送りした。大統領には3人目の野田首相で日本の首脳と信頼関係を構築したい思惑ものぞく。首脳会談後、大統領は共同記者会見に臨む首相に満面の笑みで握手した。