札幌の干場良光さんの個展。
筆者は1999年の神田日勝記念美術館、2011年の六花亭福住店での個展を見られなかった。その前は1997年か98年の大同ギャラリーでのホシバリョウミツ名義での個展ということになるから、個展を拝見するのは実におよそ18年ぶりということになる。
2003年と08年に開かれた国際版画展「アジアプリントアドベンチャー」にも出品していたが、筆者はどんな作品だったか記憶していない。
会場を覆っているのは、すべてチラシ。
新聞に入ってきたり、ポスティング（各戸配達)されたりするチラシである。あれを、大量に壁に貼り付けてインスタレーションにしている。
すべて、画鋲で固定され、角度をつけて斜めにしたりせずに、壁や天井と垂直に設置されているので、文字やデザインを読み取ることは容易である。一部は、壁からふくらんだ形で取り付けられたり、会場中央に犬小屋のようなかたちの立体に作り上げられたりしている。
一部を切り抜いて壁面からポップアップさせるなど加工しているところもあるが、ほとんどは、チラシをそのまま貼り付けている。
人間というのは往々にして、なんらかのかたちで手を加えたくなる性質があり、チラシをいったんコピーしたり、コラージュの素材にしたりといった方向に走る場合が多いんじゃないかと思う。
あえて、手を入れずにただ陳列するというのは、それはそれでけっこう勇気がいるだろう。
おもしろいのは、ボイスメモというのだろうか、ボタンを押すと数秒間の音声が流れる電子おもちゃがいくつも壁に取り付けられていること。
この意図についてはご本人が会場にいらしたらお聞きしたかったが、なにせリアルには、先述した大同ギャラリー以来お会いしていないのである。
新聞紙を素材としたアートというと、神田日勝の「室内風景」や、川俣正が水戸芸術館で展開した「デイリーニュース」を思い出す。
両者がいずれも、どこかに「情報社会への批判」という視覚をはらんでいたように思われるのに対して、干場さんが素材とするチラシは、そういう社会的な何かよりももっと即物的な感じがする。
といって、鈴木涼子がかつて「札幌の美術2002」で見せたようなピンクチラシの集積のようには生々しくはない。
言いかえれば、不動産とか衣服とか英会話教室とかエステティックサロンとか、市民の日常的な欲望を等身大で反映しているメディアだということができそうだ。
新聞のチラシって、海外にもあるのだろうか。
会場に、干場さんの手になる長文のテキストがあった。
それによると、この個展を含む近年の制作・発表は、フランスの人類学者・思想家レヴィ＝ストロースのいう概念「ブリコラージュ」を援用しているという。
筆者は浅学菲才ゆえ、その概念をよく解説しえないが、一読して分かるのは、干場さんが「フランス現代思想ってオシャレだから、なんか使えそうな横文字言葉を引っ張ってくればカッコよくね？」みたいな浅はかな考えでレヴィ＝ストロースを持ってきたのではけっしてなく、あの60年代までの現代美術の拡張と発展の時代が終わったあとで果たして自分が描きたいものはなにか、したいことは何かという、真摯で突き詰めた考察のすえに出てきたものなのだろうということである。
言いかえれば、1970年以降、現代美術（を含む多くの表現者)は、とりわけ干場さんは、とりたてて言いたいことや描きたいことを、失ってきたという問題意識が、ブリコラージュにいたる出発点になっているのだろう。
ただし、干場さんのブリコラージュ論では、コンセプトの方が実際の展示よりもたいせつなことになってしまい、実際の会場に足を運ぶことがそれほど重要視されていないように思う。この場合、ブリコラージュであるから、チラシは別に他の素材でも身の回りにあって役に立てばいっこうにさしつかえないというわけだ。
別にそれでもかまわないといえばかまわないのだが、干場さんの中で「リアル」と「コンセプト（この場合は「イメージ」ではない、と思う)」はどういう仕切りになっているのだろうか。そのあたりをお聞きしたかった気もする。
2015年4月5日(日)～19日(日)正午～午後6時（最終日～5時）、火曜休み
ギャラリーレタラ（札幌市中央区北1西28）
□干場良光のブリコラ日記 http://r-h923.hatenablog.com/
■Six in October (2013）
■アジアプリントアドベンチャー （2008)
筆者は1999年の神田日勝記念美術館、2011年の六花亭福住店での個展を見られなかった。その前は1997年か98年の大同ギャラリーでのホシバリョウミツ名義での個展ということになるから、個展を拝見するのは実におよそ18年ぶりということになる。
2003年と08年に開かれた国際版画展「アジアプリントアドベンチャー」にも出品していたが、筆者はどんな作品だったか記憶していない。
会場を覆っているのは、すべてチラシ。
新聞に入ってきたり、ポスティング（各戸配達)されたりするチラシである。あれを、大量に壁に貼り付けてインスタレーションにしている。
すべて、画鋲で固定され、角度をつけて斜めにしたりせずに、壁や天井と垂直に設置されているので、文字やデザインを読み取ることは容易である。一部は、壁からふくらんだ形で取り付けられたり、会場中央に犬小屋のようなかたちの立体に作り上げられたりしている。
一部を切り抜いて壁面からポップアップさせるなど加工しているところもあるが、ほとんどは、チラシをそのまま貼り付けている。
人間というのは往々にして、なんらかのかたちで手を加えたくなる性質があり、チラシをいったんコピーしたり、コラージュの素材にしたりといった方向に走る場合が多いんじゃないかと思う。
あえて、手を入れずにただ陳列するというのは、それはそれでけっこう勇気がいるだろう。
おもしろいのは、ボイスメモというのだろうか、ボタンを押すと数秒間の音声が流れる電子おもちゃがいくつも壁に取り付けられていること。
この意図についてはご本人が会場にいらしたらお聞きしたかったが、なにせリアルには、先述した大同ギャラリー以来お会いしていないのである。
新聞紙を素材としたアートというと、神田日勝の「室内風景」や、川俣正が水戸芸術館で展開した「デイリーニュース」を思い出す。
両者がいずれも、どこかに「情報社会への批判」という視覚をはらんでいたように思われるのに対して、干場さんが素材とするチラシは、そういう社会的な何かよりももっと即物的な感じがする。
といって、鈴木涼子がかつて「札幌の美術2002」で見せたようなピンクチラシの集積のようには生々しくはない。
言いかえれば、不動産とか衣服とか英会話教室とかエステティックサロンとか、市民の日常的な欲望を等身大で反映しているメディアだということができそうだ。
新聞のチラシって、海外にもあるのだろうか。
会場に、干場さんの手になる長文のテキストがあった。
それによると、この個展を含む近年の制作・発表は、フランスの人類学者・思想家レヴィ＝ストロースのいう概念「ブリコラージュ」を援用しているという。
筆者は浅学菲才ゆえ、その概念をよく解説しえないが、一読して分かるのは、干場さんが「フランス現代思想ってオシャレだから、なんか使えそうな横文字言葉を引っ張ってくればカッコよくね？」みたいな浅はかな考えでレヴィ＝ストロースを持ってきたのではけっしてなく、あの60年代までの現代美術の拡張と発展の時代が終わったあとで果たして自分が描きたいものはなにか、したいことは何かという、真摯で突き詰めた考察のすえに出てきたものなのだろうということである。
言いかえれば、1970年以降、現代美術（を含む多くの表現者)は、とりわけ干場さんは、とりたてて言いたいことや描きたいことを、失ってきたという問題意識が、ブリコラージュにいたる出発点になっているのだろう。
ただし、干場さんのブリコラージュ論では、コンセプトの方が実際の展示よりもたいせつなことになってしまい、実際の会場に足を運ぶことがそれほど重要視されていないように思う。この場合、ブリコラージュであるから、チラシは別に他の素材でも身の回りにあって役に立てばいっこうにさしつかえないというわけだ。
別にそれでもかまわないといえばかまわないのだが、干場さんの中で「リアル」と「コンセプト（この場合は「イメージ」ではない、と思う)」はどういう仕切りになっているのだろうか。そのあたりをお聞きしたかった気もする。
2015年4月5日(日)～19日(日)正午～午後6時（最終日～5時）、火曜休み
ギャラリーレタラ（札幌市中央区北1西28）
□干場良光のブリコラ日記 http://r-h923.hatenablog.com/
■Six in October (2013）
■アジアプリントアドベンチャー （2008)
