洗濯代行サービス「Washio」の倒産にみる、オンデマンドサービスの限界

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  • author 福田ミホ
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洗濯代行サービス「Washio」の倒産にみる、オンデマンドサービスの限界

いつでも何でもすぐやってくれて、しかも安く…なんて無理ゲー。

この数年シリコンバレーでは、「○○業界のUber」みたいな,いわゆる「オンデマンドサービス」が雨後の竹の子のように登場しました。たとえばいろんな雑用を代行してくれるTaskRabbit、スーパーへの買い物を代行してくれるInstacart、駐車代行サービスのLuxe、美容師さんが家に来てくれるbeGlammed、などなどです。この手のサービスをまとめて管理してくれる執事サービスなんてのもあり、使いこなせば我々は日々発生する家事や雑用から解放されたセレブな生活ができて、しかも専属のお手伝いさんや運転手を雇うより圧倒的に安い、みたいなことになるのかも?と期待されました。

でもここ1年ほどのオンデマンドサービスの動向をみてみると、何もかもそんなにうまくいくわけじゃないみたいです。たとえばThe Informationは、一見好調に見えた洗濯代行サービス「Washio」の閉業とその背景を伝えています。

営業するほど赤字

2013年に創業したWashioは、洗濯物をオンデマンドで取りに来てくれて、24時間以内に洗って返してくれるサービスでした。米国都市部のアパートメントなどでは、家の中に洗濯機がない家が多く、アパートメントの共用ランドリーや街中のコインランドリー、洗濯代行サービスなどを利用するのが一般的です。ユーザーはWashioを利用することで、洗濯の作業やコインランドリーに持っていく手間などを省くことができました。2015年半ばには、サンフランシスコやワシントンD.C.など米国内の6都市にまで拡大し、売上は月80万ドル(約9200万円)に達したといいます。

それでも彼らは、毎月50万ドル(約5800万円)前後の赤字を垂れ流していたそうです。いくつか要因がありますがまとめていうと、不特定多数に向けてサービスするために、さまざまなコストがかかっていたんです。

まずユーザーから洗濯物を受け取ったら、そこに洗っちゃいけないものが入ってないかチェックしなきゃいけません。猫とか(実際入ってた)明らかにおかしなものは誰でも気づけますが、ドライクリーニング専用とか乾燥機に入れちゃいけないとかの判断はもっと微妙なので、Washioはその仕分け作業のためにフルタイムの社員を雇っていました。

また、オンデマンドサービスを標榜する限り、ユーザーからお呼びがかかったらいつでもそこに行ける体制が必要です。Washioでは洗濯物をデリバリーするドライバーを時給15ドル(約1,800円)ほどで雇っていて、その人がデリバリー作業をしていない時間に対してもそれを支払う必要がありました。それにこの手のサービスは、ある程度規模を大きくしないと仕組みを作る意味がないので、マーケティング費用もかさみます。

しかも値上げすると使われなくなるので、簡単にはできません。Washioは、営業すればするほど赤字だったんです。

それでも創業者のJordan Metzner氏は、ある時点までは危機感がなかったことをThe Informationに語っています。「ゴーゴーゴー、成長、成長、成長。それで投資が舞い込んでくる。当時の意識はそんな感じでした」。そして、投資家もまた堅実に利益を出すことよりは、お金をかけてでも規模を拡大するようにプレッシャーをかけていたと言います。

投資の切れ目がサービスの切れ目

潮目が変わったのは2015年半ば、掃除代行サービスのHomeJoyが倒産したときでした。HomeJoyは当時ベンチャーキャピタルからWashioの倍の規模の出資を集め、100人以上の社員を抱えるまでに成長していました。でも掃除の作業者(正社員ではない)から正社員待遇を求める訴訟を複数起こされ、その費用負担に耐えられなかったんです。

HomeJoyとWashioは洗濯と掃除ってことで、やることは違いますが、オンデマンドという意味では同じです。作業者の待遇を保障するための法整備も追いついていない、訴訟費用くらいで倒産してしまうオンデマンドサービスの未熟さに失望した投資家たちは出資を渋るようになり、Washioも期待していた追加投資を受けられなくなってしまいました。それまではどんどん拡大しろって言ってたのに、問題が起きたら手のひら返し…。

そんなわけでこの1年ほど、Washioと同じように赤字を垂れ流していたオンデマンドサービスが次々とサービス停止、または縮小していきました。CNETによれば、シェフ派遣サービスのKitchitKitchensurfing、フードデリバリーのSpoonRocketが閉業し、駐車代行サービスのZIRXはコンシューマー向けサービスをクローズして法人向けのSTRATIMとなりました。Uberの競合だったSidecarは閉業してGMに買収されました。フードデリバリーのMuncheryは今も運営しているものの、売れ残りが大量発生してコストを押し上げ、レイオフと創業者の退社が発表されました。

というかUberだって、もはやデファクト化しているのに大赤字です。儲からなくても市場から資金調達できるから生き残れる、逆にいえば、投資家の気が変わったらあっという間につぶれてしまうんです。

「オンデマンド」じゃなくたっていい

こうして死屍累々が築かれてきた一方、堅実に利益を出すモデルを模索してきた会社もあります。Washioと同じ洗濯代行サービスの「Rinse」はWashioから顧客リストを買い取りましたが、その運営方針は他のオンデマンドサービスに比べてぐっと地道です。RinseのCEOのAjay Prakash氏はTechCrunchで、従来のオンデマンドサービスの問題点を指摘しています。

Prakash氏によれば、今あるオンデマンドサービスの中には必ずしもオンデマンドである必要のないものが多くあります。Uberがなぜオンデマンドかっていうと、「急いで移動したい瞬間が何時何分に発生するか」なんて事前に予測できないからです。でもたとえば洗濯というタスクには、週末1回+平日1〜2回みたいに、ある程度パターンがあります。

その手のタスクには「オンデマンド」でなく「スマートスケジューリング」が適している、とPrakash氏は言います。それは「一定の間隔で発生する顧客のニーズに合わせたサービスを構築すること」で、現在のRinseはその考えに基づいています。

Rinseでは、たとえば洗濯物の回収・配送の時間帯は夜8時〜10時に限定されていて、回収から配送までは3〜4日かかり、それを短縮したい場合は追加料金が必要です。たいていのニーズはこれで満足できて、コストは大幅に削減できるというわけです。Parakesh氏は洗濯以外にも、家の掃除や洗車、貸倉庫といったサービスはスマートスケジューリングが適していると言っています。

ただこれだと、ユーザー側の利便性はオンデマンドより下がります。Rinseの例でいえば、夜8時〜10時の間に家にいるか、自分がいなくても対応できる状態にしなくちゃいけないし、洗濯物が返ってくるまで日数がかかるので、その分下着とかシャツとかにも余裕が必要です。

でも、ユーザーの利便性を最優先するオンデマンドサービスには、思われていた以上にお金がかかるんです。オンデマンドサービスの多くは「シェアリングサービス」とも呼ばれ、タクシーとか家事代行みたいなちょっとした贅沢をシェアすることでコストも分け合うことができ、良いものが低コストで手に入るイメージがありました。でも実際やってみたら、待機時間の人件費とか、余分な食材とか、複数ユーザーの家を回るための最適ルート計算ソフトの開発費とか、規模を確保するためのマーケティング費などなど、不特定多数の気まぐれな利用に対応するためのコストがかさんで、シェアしきれなかったんです。

なので「オンデマンドサービスで手軽にセレブ気分」っていうイメージは、少なくとも2017年の現時点では、幻想だったみたいです。あと10年くらいしたらいろんな家事やら雑用もロボットが全部やってくれるようになるのかもしれませんけど、それまでは少し制約のある「スマートスケジューリング」的サービスで我慢するか、自分の洗濯は自分でするか、しなきゃいけなさそうです。

image: Rido/Shutterstock.com
source: The Information, CNBC, CNET, STRATIM, Ars Technica, Bloomberg(1, 2), Rinse, TechCrunch
参考: TaskRabbit, Instacart, Luxe, beGlammed

(福田ミホ)