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キャリアクラウドの正常進化!OpenStackベースの新アーキテクチャに移行

クラウドネイティブICTも動くNTT Comの新しいEnterprise Cloud

2016年03月02日 07時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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3月1日、NTTコミュニケーションズ(NTT Com)はクラウドサービス「Enterprise Cloud」の大幅な機能強化を発表。トラディショナルICTに加え、迅速性や柔軟性が必要なクラウドネイティブICTに対応すべく、OpenStackベースの新アーキテクチャとSoftware-Defined化されたインフラ基盤に移行する。

SDxの導入で自動化・効率化を推進

 「Global Cloud Vision」を掲げ、クラウド事業に注力するNTTコミュニケーションズ。米国ではクラウド事業から撤退するキャリアも現れる中、同社は引き続き投資の手を緩めず、ビジネスの拡大に推進していくという。そんなNTTコミュニケーションズの「Enterprise Cloud」は、文字通りエンタープライズでの利用を前提としたパブリッククラウドサービスになる。

NTTコミュニケーションズ クラウドサービス部 ホスティングサービス部門長 栗原秀樹氏

 発表会に登壇したNTTコミュニケーションズ クラウドサービス部 ホスティングサービス部門長 栗原秀樹氏は、共通仕様のサービスをグローバル展開することで企業のICTの標準化やガバナンスを実現すると共に、Software-Defined化(SDx)の取り組みを推進し、より高度なサービスを提供していくのがサービスのポイントと語る。「従来は人の手によるインテグレーションが進んでいたが、SDxのテクノロジーで自動化を進めていく。サービスのレイヤーごとにAPIを出し、内部的に自動化のテクノロジーで統一し、運用の効率化や迅速化、コスト削減につなげていく。あわせてAPIを外部から利用することで、お客様自身の業務の自動化・効率化に貢献する」(栗原氏)。

SDx化で従来のSI部分を自動化する

 同社では、こうしたクラウドサービスの基盤として、業界的にトップレベルに入るグローバルIPネットワークとデータセンターを構築している。ネットワークに関しては、世界26カ国・地域で高速・大容量のIPバックボーンを展開し、特にAPAC地域では最大の規模に成長。IPバックボーンの高付加価値化も進め、DDoS攻撃などをキャリア側で受け止める体制も構築しているという。

 また、買収も含めた積極的な投資を行なっているデータセンターは海外でも24.5万㎡のサーバー床面積を提供するに至り、日本と比べて約2倍を実現したという。こうしたインフラに支えられたEnterprise Cloudは、セキュリティやクラウドマイグレーションも含め、グローバルで共通仕様となるサービスを現在11カ国14地域で提供している。

大容量・高速なIPバックボーン

海外データセンターの床面積は国内の2倍を確保

トラディショナルICTとクラウドネイティブICTをホスト

 今回のEnterprise Cloudの機能強化は、トラディショナルICTとクラウドネイティブICTのニーズを両立するのが大きな目的だ。「従来、基幹システムを前提としたトラディショナルICTのKPIは業務の効率化やコスト削減を目指していた。しかし、昨今はデジタルトランスフォーメーションの名の元、ビッグデータやIoT、DevOps、新ビジネス基盤などの文脈でクラウドネイティブICTが台頭してきた。なるべく速く、新しい機能を提供する必要が出てきた」と栗原氏は語る。

トラディショナルICTとクラウドネイティブICTをカバーするEnterprise Cloud

 新しいEnterprise Cloudでは、トラディショナルICTで重視されるオンプレミスと同等の堅牢性や安全性、そしてクラウドネイティブICTに求められるデジタルビジネスに対応する俊敏性と柔軟性を満たすべく、大きく5つの機能強化を施したという。

ベアメタル型の「Hosted Private Cloud」
基幹システムのマイグレーションを前提とした高い信頼性を持つ専有型のホスティングサービス。「従来のホスティングサービスは構築や増設のようにマニュアルの操作が入るが、Hosted Private Cloudでは完全な自動化基盤を提供する」(栗原氏)のことで、オンデマンドで従量課金に対応したベアメタルサーバーとして提供する。VMware vSphereのみならず、Microsoft Hyper-Vも含めた仮想化環境を、ハイパーバイザーのAPIと連携したオンプレミスのエコシステムをそのままクラウド上で展開できるという。

オンデマンドで従量課金に対応する「Hosted Private Cloud」

エンタープライズ向け「共有型Cloud」
クラウドネイティブICTを前提とした共有型のクラウドサービスで、OpenStackのアーキテクチャ、Cloud FoundryやOpenStackなど業界標準のAPIを備える。業界標準の技術に対応することで、「クラウドにロックインされたシステムをオンプレミスに戻したい、他社に移行したいというニーズにもお応えする」(栗原氏)とのこと。また、フルスクラッチのクラウドネイティブアプリのみならず、既存のトラディショナルICTの一部を切り出したエンタープライズのクラウドネイティブ対応も容易に行なえるよう、専有型のHosted Private Cloudと相互接続し、連携を容易にする。

クラウドネイティブICTを前提としたOpenStackベースの共有型Cloud

オンプレのネットワーク構成をクラウドでも実現
SDNを活用し、Hosted Private Cloudと共有型Cloudを同一のネットワークで提供できるほか、ファイアウォールやロードバランサー、複数のセグメントで構成されたオンプレミスのネットワーク構成をそのままクラウド上で適用できる。「クラウドマイグレーションの課題は、ネットワークである場合が多い。特にマルチテナントの場合、クラウドのネットワークの制限をお客様に押しつけてしまうことがある」と栗原氏は指摘する。これに対して新しいEnterprise Cloudでは仮想サーバーとベアメタルサーバー、ファイアウォールやロードバランサーを自由に配置できるほか、多段のネットワーク構成を実現。IPアドレッシングも柔軟性が高く、ネットワークの再設計工程が不要になるという。栗原氏は、「クラウドから押しつけられるネットワークではなく、お客様が使いたいネットワークを実現できるよう、作り込んでいる」と語る。あわせてマルチクラウドの接続もサポートし、柔軟性の高い構成を実現する。

複雑な企業ネットワークをクラウド上に実現

グローバルシームレスな10Gbpsネットワーク
Enterpirse Cloudの拠点を含むコロケーション間を10Gbpsのベストエフォート閉域網で接続する。クラウド間通信は無料で利用できるほか、クラウドとコロケーション間の通信、あるいはコロケーション間通信は低価格で提供する。設定等もSDxのテクノロジーを用いて自動化されており、短期間にプロビジョニングを行なえる。

複雑な企業ネットワークをクラウド上に実現

マルチクラウド対応のクラウドマネジメントプラットフォーム
NTTコミュニケーションズのクラウドのみならず、Arcstar Universal Oneで接続されたAWSやAzureまで含め、マルチクラウド環境におけるガバナンスや効率的な運用を実現するポータル機能を提供する。ユーザー環境にあわせてダッシュボードをカスタマイズでき、ハイブリッドクラウド構成の管理を容易にするのが目的。「われわれはデータセンターやネットワーク、クラウドのフルレイヤーを統合して、お客様に提供していく。CMPとマネージドサービスを連携させて、エンドツーエンドのサービスを実現させていく」(栗原氏)。

マルチクラウド環境の統合管理ポータルを提供

SDxをベースにしたマイクロサービスアーキテクチャ

 続いて栗原氏はサービスアーキテクチャについて説明した。Enterprise CloudはCloud FoundryとOpenStackをベースにしたマイクロサービスアーキテクチャとなっている。GUIにHorizon、認証にKeystone、IaaSはNova、イメージサービスにGlance、ストレージコントローラーのCinderなど、OpenStack系のコンポーネントを全面採用。一方で、vSphereやHyper-Vのエコシステムを活かすべく、NovaとIronic互換のAPIを持つベアメタルサーバーやNeutron互換のネットワークコントローラーなどは自社で独自に開発し、クラウドプロバイダーとしての差別化を進めるという。「シンタックスやデータモデルもOpenStackの考えを取り込むことで、自社開発のコンポーネントとも相性よく統合されている」と栗原氏は語る。

Enterprise Cloudのマイクロサービスアーキテクチャ

 コミュニティへの貢献も積極的で、昨年行なわれた「OpenStack Summit Tokyo 2015」ではAPAC地域では始めて「OpenStack Superuser Award」を受賞。「弊社だけでなく、NTTデータやNTTドコモを含めたNTTグループ全体としてOpenStackの取り組みを積極的に進めていく」と栗原氏は語る。

 今後もSDx化により、データセンターやネットワーク、クラウドをグローバルで統合。Global Cloud Visionに則り、2016年度中に日本からスタートし、イギリス、シンガポール、米国、オーストラリア、香港、ドイツなどの7カ国で機能強化を進めるという。

 なお、同じOpenStackベースのCloudnに関しては、Enterprise CloudとOpenStackのバージョンが異なることもあり、今後もサービスを継続する。「CloudnのOpenStackの実績を元に、エンタープライズレベルに引き上げたのが、今回のEnterprise Cloudの機能強化ととらえていただきたい」と栗原氏はコメントする。

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