「利点を最大限に活用すべく、全システムに無条件にパブリッククラウドを適用する」(東急ハンズ)、「基本的に全てのシステムをクラウドファースト、クラウドネイティブで検討する」(ファーストリテイリング)、「アプライアンス製品などクラウドを利用できないシステム以外は、基本的にパブリッククラウドを使う」(丸紅)――。

 本誌が100社の企業を対象に実施した取材やアンケート調査の結果、力強い宣言が相次いだ。2013年に実施した同様の調査と比較すると、国内のパブリッククラウド活用の進展は著しい。

 ここでいうパブリッククラウドとは、コンピュータリソースを利用量や期間に応じた料金で使うサービスのこと。クラウドベンダー所有のリソースを、自社専用または他社と共用の形で利用する形態を指す。

 2013年当時は、システム構築時にパブリッククラウドを第一の選択肢とする、「クラウドファースト」を実践する企業が登場した。今回の調査で際立つのは、基本的に全てのシステムをパブリッククラウドに乗せる、“全面活用”企業の台頭だ。オンプレミスには何も残さない方針を掲げている(図1)。

図1 パブリッククラウドを巡る情勢の変化
図1 パブリッククラウドを巡る情勢の変化
業種やシステムの種類を問わず活用が広がる
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 そのうちの1社が、大和ハウス工業である。2014年12月に、全システムのクラウド移行を完了した。執行役員 情報システム部長の加藤恭滋氏は「世の中の進歩はますます早くなっている。オンプレミス環境では、新技術の導入が遅れる」と話す。

 一部の先進企業だけではない。今回の調査で「パブリッククラウドを全面的に活用する」と回答した企業は、29%に上った。

競争力強化に欠かせぬ存在に

 今後は、ほぼ全ての国内企業が全面活用に乗り出すかもしれない。アンケートからは、国内企業の“総クラウド化”を予感させる動きも浮かび上がる。これまでクラウドとは縁遠いと思われてきた種類のシステムでも、クラウド移行が着実に進んでいる。

 代表格が、銀行などを支える金融系のシステム。ソニー銀行では現在、自社システムのAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)への移行を進めている。ファイルサーバーなどの社内業務向けシステムだけでなく、銀行業務に関わるシステムも移行の対象とする。

 インターネットバンキングや勘定系などの基幹系システム以外は、全てAWSに移行する計画だ。クラウドと自社を専用線接続するサービスなどがそろってきたことから、移行に踏み切った。

 クラウドは、企業の競争力維持に欠かせない存在になりつつある。ビジネス拡大につながる、IoT(Internet of Things)やビッグデータ、モバイルなどを活用した新規アプリケーションの開発事例が、アンケートには多数寄せられた。

 コーセーは2015年8月から、社内に蓄積された各種データの分析基盤をAWS上に構築し始めている。まずは社内に点在するデータ分析の仕組みを統合し、その後、データを効果的に分析するためのシステム開発を予定している。

 コーセー 情報統括部 小椋敦子部長は「クラウドが提供する機械学習などのサービスに興味がある。こうした技術を使って、データから新たな価値を生み出したい」と話す。

 高まる企業ニーズに対応すべく、ITベンダーも動きを活発化させる。企業のクラウド活用を手軽にするための環境整備が、急ピッチで進められている。

 Part1からは、クラウド全面活用に踏み切る企業の狙いや、新たなクラウドの活用法やノウハウについてレポートする。本誌が実施したアンケートに回答した企業のうち、利用中のサービスについて記載のあった92社の主な活用状況も掲載する。最後に、ITベンダー各社の戦略を取り上げる。