阪神大震災・・・。
あの日、震度7の真上にいた人間として、ちょっとだけサジェスチョンをしようと思います。

それは「地震が起こる前にどういう準備をしておけばいいのか」ということ。

経験者しか語れないことってあると思います。悔恨をこめてお伝えします。状況によっていろいろあるのですが、ボクが実際に体験した例からいくつかピックアップして「備え」について書いてみようと思います。

なるべく少なめに、箇条書きにしていきます。最低限これだけは、というレベルのことです。参考にしてください。

 

●家具の固定は基本中の基本

家具の固定、してますか?

「あぁ、わかってはいるんだけど、壁に穴あけたくないし、それにあれってインテリアとしてもちょっとねぇ…」って? ええ、気持ちはよ〜くわかります。でもそんなの震災を一度でも経験しちゃえば口が裂けても言わなくなりますよ。だって、家具に押しつぶされて亡くなった方、山ほどいるんですから。 最低限、押しつぶされたらヤバイやつだけでも固定しましょう。

壁にしっかり固定してください。アップライトピアノのように超重くて背がそんなに高くないものだって倒れるんですよ(たとえばこんな例)。とにかく固定しまくってください。
コツとしては「梁の部分に打ちつける」こと。壁を拳でコンコンっと叩いていくと空虚な音が急に詰まって聞こえる音に変わる部分があります。そこに梁が通っていますから、そこに釘を打って家具を固定します。そこでないと、たったひと揺れで壁から釘が抜けちゃいます。いやホント。

固定器具はいろいろ売っていますが「鎖もの」は避けてください。
震度7なら一発で切れちゃいます。
L字型の金具で家具自体を壁に打ちつけちゃうのが一番。後ろ側に打てば前からは見えませんから、インテリア的にもなんとか許せるでしょ?(家具のどこに打ちつけるのかも良く考えてください。合板のギザギザになったところなんかだったらすぐ釘が抜けちゃいます。人間の力で抜けなくても震度7なら抜けます)。

家具に穴あけるのが嫌なら(一度大地震を体験するとそんなこという人いなくなりますが)、丈夫な金属製のヒモ(繰り返すけど鎖ものは避けてね)で括り付けるタイプのものも売っています。
家具の形が打ちつけるのに向いていないものなどにも有効です。この金属ヒモタイプは冷蔵庫を括るにも有効です。冷蔵庫の裏面上部に縛ることが出来る穴があいていますので(お持ちの冷蔵庫によるけど)そこに通して結ぶ。そのヒモを壁の梁の部分に固定するのです。冷蔵庫には釘を打てませんので是非この方法で。

「つっかえ棒」みたいなタイプも出ていますね。これはあんまりオススメしません。
震度7くらいになると家自体がひしゃげるように揺れますから天井と壁との関係も直角ではなくなる瞬間があるのです。その瞬間が「つっかえ棒」を効かなくさせます。それにアレ、見た目ひどいし。

観音開きの棚の扉を固定するのも忘れずに。
赤ん坊がいたずらしないように、というのを主目的に扉ストッパーが売っています。あれがいいと思います。特にマンションのキッチンの上部によくある棚。あそこに食器やグラスを置いていると100%落ちてきて割れまくります。
「高い器に限って必ず割れる」というのは「震災を経験した人間の共通ジンクス」。
また、割れたガラスを踏んで怪我をした人の多かったこと。足にけがすると地震後の火事などから逃げるのにも差し支えるので是非固定してください。してない人はすぐ買いにいきましょう。

我が家は東京に引っ越してきて、家具はひとつも買わず、すべて壁に作りつけにしました。倒れないように。そして、棚という棚に扉ストッパーをつけました。

とにかく、固定しまくること。マジで。
29型テレビがコンセント引きちぎって5メートルすっ飛ぶくらい揺れるのですから。経験しないと想像できないとは思うけど…。
飛んだところにアナタや赤ちゃんがいたらどうなると思います?


●寝室に背の高い家具を置かない

大事なポイントです。
起きている時に揺れたなら倒れてくる家具にも対処できますが、寝ているときだと全然対処できません。だいたい真っ暗ですし、電気つけてても家具が倒れる前に消えます。

阪神大震災でこんなに死者が多かったのは、寝室での家具による圧死がかなり多かったのもあると言われています。寝室に背の高い家具置いていませんか? え? タンスがあるって? そりゃ大変だ。二重三重に壁に固定してください。いやマジで。それでも引き出しが抜けて飛んできます。引き出しが頭に直撃して大怪我した子供を知っています。大怪我ですんでホントによかった。要はタンスを置かないことが一番。
え? 寝室にピアノがある!?  最悪すぎ。耐震用ピアノ固定器具が売ってるのですぐ頼むように。だって頭やられなくても足だってペシャンコですよ、ピアノ倒れてきたら。

うちでは寝室が狭いことが幸いしました。
ベッドを2つ入れたらもうあとは背の低いチェストしか入らなかったのです。だから他の部屋はグジャグジャでしたが、寝室だけは無傷。もし背の高い家具があったらと思うと冷や汗モンです。臨月だった妻のお腹なんて一発だったでしょう。
そんなこと言ったってタンスを移動する場所がないって? そうでしょうね。その場合、せめて「倒れてきても頭がつぶされないところ」に枕がくるようにレイアウトを工夫しましょう。しょうがないから下半身は捨てるのです。いやマジで。


●貴重品は奥にしまわない

揺れって方向があるんです。
東西に揺れた場合、南北の壁に置いている家具は倒れにくい。
だけど結局は倒れますから、例えば「まず東西の壁の家具が倒れる→次に南北が倒れる」という感じになります。そうなった場合を想像してみてください。家具が錯綜して行く手を阻むのです。複雑に重なり合うので、とてもじゃないけど部屋の奥には行けません。逆に言うと、部屋の奥にいた場合、出られません(笑

もうわかると思うけど、どうしても持ち出したい貴重品は部屋の奥とか、押入にしまわないように。
「なんとか取りに行くからいいよ」って? いやいや甘い。余震が怖くてつぶれかけの家なんて入る気になれないですよ。火事が近くまで迫っている場合もある。

貴重品は、比較的家具が少ない部屋か、玄関の下駄箱にでもしまう。
これは家が倒れた場合でも重要です。貴重品を掘りだすのが楽になります。
特に玄関。
玄関は外からもアクセスしやすいし、概して狭くて小さい箱型なので丈夫です。つぶれにくい。え? 貴重品を玄関に置くなんて不用心? んー、本当の貴重品は銀行にでも預けて、当座必要な貴重品を玄関に隠しておくのはどうですか? とりあえず部屋の奥にしまっといて取り出せないよりいいでしょう?
あ、もし「緊急持ち出しグッズ」みたいなものを持っているならこれも玄関に(いらんとは思うけど)。缶詰やミネラルウォーターも奥にはしまわないように。だってせっかく備蓄していたのに取り出せないんじゃあまりに意味なし。あと、下で書くけど「メガネ」もね。


●予備のメガネを下駄箱に

目がいい人には関係ないけど、コンタクトを含めて目が悪い人は必読です。
寝ている時間に地震が起こっても、すぐメガネがかけられるようにメガネの置場所をよ〜く考えて寝てください。
いいですか。「家具などが倒れてこない場所」で、かつ、「揺れで飛ばされない場所」。なにしろ29インチのTVが5メートル飛ばされる揺れですからメガネなんかどっか行っちゃう危険があります(軽いものはあまり飛ばないという説もあるけど念のため)。

メガネをなくして苦労したという話は神戸近辺ではゴロゴロしてます。避難所に眼鏡屋さんのワゴンが来るとまわりは黒山の人だかりです。家つぶれた人はもちろん、つぶれてない人でも割れちゃったりなくしたりでスゴク苦労していました。メガネないと生活不便ですからねぇ。

そしてもうひとつ。予備のメガネを下駄箱に放り込んでおきましょう。
これは意外と盲点だけど、とっても大事です。
少々ピントが合わない古いものでも、ないよりましです。ちゃんと丈夫なメガネケースに入れて玄関の下駄箱にでもひとつ放り込んでおきましょう。上に書いた「貴重品は奥にしまわない」というのと同じ発想です。下駄箱ならつぶれにくいし、家がつぶれても外からアクセスしやすい。

コンタクトの人。他人事だと思って読んでませんか?
水が出ないのでとにかくメガネが必要です。しまってあるのを出してきて下駄箱などにしまい直しましょう。水が少々あっても地震後の外はホコリだらけ(←すごいです)。コンタクトしてると痛いと思うよ。


●お酒は高いところにしまわない

もともとね、お酒って上の方にしまったらダメなんです。
上の方は室温が高いので変質しやすい。でも多くの家庭で棚の上とかタンスの上にお酒を置いている例を見かけます(バーとかのディスプレイの影響でしょう)。何を隠そうこのボクも、ワインこそ冷暗所にしまってましたが、日常晩酌用のバーボンやグラッパを飾り棚の上段にちょっときれいにレイアウトして並べて置いてあったのです。
え? きれいにレイアウトして何がいけないかって?
いやね、揺れれば当然落っこちて割れますんです。ウィスキーボトルみたいな丈夫な酒瓶なら割れないんじゃない?と思うでしょうが、いろんなところからいろんなものが酒瓶の上に落ちたり倒れたりしますからまぁかなりの確率で割れますね。でね、必然的に中のお酒がドワーーッと部屋に流れ出ます。んでもって水道が出ないから、拭き取りとか完ぺきには出来ないでしょ。つか、そんな余裕ないんです。で、お酒が匂いまくる、と。

大変ですよぉ。この匂い。
バーボンが異様に匂う部屋で(阪神大震災は冬でしたから)締め切って生活してご覧なさい。気が狂います。
ウイスキーも日本酒もワインもたまらないでしょう。飲まなければ単なる悪臭の元なんです。しかもフローリングの床が酒焼けしちゃって白くなっちゃうし、いやホント細かいことのようですが、悪いことは言わないから酒は低いところにしまいましょう。ほら!いますぐ!


●「緊急持ち出しグッズ」なんて、買うだけ無駄

いまの日本の豊かさを考えると救援物資は半日〜1日待てば届き始めます。そのくらいはハラヘリもノドカワキも我慢できます。阪神大震災でも餓死したなんて話し聞かないでしょ。だから「乾パン」なんて全く無駄。時代錯誤もいいところです。防災頭巾にいたっては空襲でもない限りいりません。昭和初期じゃないんだから。そんなの買うくらいなら、ミネラルウォーターをひとつでも多く買って置いておきましょう。


●絶対いるのは、懐中電灯とバケツ、それに帽子

上の話の続きですが、経験上どうしても欲しいものは「懐中電灯」と「バケツ」ですね。
これは常備してください。水タンクもあったら助かりますが、まぁバケツで凌げるでしょう。ラジオとかも欲しくなりますが、近くの避難所に行けば情報は入るのでなんとか凌げます。

あ、それと「帽子」も絶対いりますよ。
これは防災頭巾がわりとかではなくて、単なる「髪型隠し」です。
何日も風呂に入らない生活だと髪はボロボロボサボサになります。その状態で避難所に行ったり自衛隊の給水に並んだりしなければなりません。現代生活に慣れている人はこれが意外に苦になります。緊急時にそんなこと気にする方がおかしいって? いやいや、特に都会人にはこんな些細に思えることが意外と大きいのです。普段かぶる習慣がない人もCAPをひとつ用意して玄関近くに置いておくとそこらへんの精神的苦痛から開放されます。いや、大事なんですよ。精神ケアって。 現代型地震においては、地震による肉体的ケアより精神的ケアの方がずっと大事でしょう。


●ガス製品から電気製品に変えていこう

電気は比較的早めに復旧します。でも、場所にもよるけどガスは当分使えないと思った方がいいです。
ボクの家では3ヵ月ガスが来ませんでした。だから比較的ガスにたよって生活している人は苦難の道を歩むことになります。ガス会社の方には申し訳ありませんが、電気ジャーポットや電気エアコンに徐々に変えていきましょう。
電磁調理器なども活躍します。どうしてもいるのは電気ジャーポット。うちではいちいちガスでお湯湧かすのが好きだったので持ってなかったんです。これ、やっぱりいりますね。特に冬に地震が起こった時用に是非。あ、夏でも水はお白湯にして飲んだ方がいいかも。不潔な水が多くなるかもしれないから。

余談ですが、カセットコンロは役に立ちますよ。これがないと基本的に「温かいものが食べられない生活」になります。熱を通す器具が他にないからです。これって苦痛ですよ。避難所で温かい豚汁とかが一番人気だったのはそういうわけです。
夏ならクーラーボックスもかなり活躍すると思います。電気が来ないときのために(東京なら1週間くらい来ない地域があっても不思議ではない)こういったアウトドアグッズは買っておいてもいいかもしれません。でも、なくても死にはしないし、避難所に行けば生活は出来るから「あるにこしたことはない」のレベルです。


●地震保険や火災保険のお粗末

おりません。はっきり言って。証明が大変です。延焼には保険おりませんしね。だいたいそんなに保険認める前例作ったら、首都で大震災起きたら保険会社つぶれます。だから超シブチンです。結局保険会社は困ったときの保険にはならんということです。まぁこれは一概に言えないかもしれませんが、地震保険なんて特に意味がないとボクは思います。


●安普請の持ち家より、しっかりした賃貸

これはね、いろんな問題を含んでますよね。
でも地震後ボクの友達はみな口を揃えて「もう家は買わない。買う気も起こらない」と言っています。家を買って悲惨な目(ローンがまだ15年も残っているのに家がつぶれちゃったとか)にあっている人が多すぎるのです。それに比べて賃貸は気楽です。壊れたら出てっちゃえばいいんですから。そりゃ賃料高いしもったいない。でもね……。まぁこれはいろんな事情ありますから一概には言えませんよね。

というか、かく言うボク自身、その後東京に引っ越してきて、持ち家に住んでいます。
ただ、設計してくれた方にしつこいくらい地震対策をお願いしました。家具はすべて作りつけ。棚の扉はすべてストッパーつき。そしてそして、壁の内部には通常の倍以上「筋交い(すじかい)」を入れてもらいました。地震の専門家にも見てもらったし。

あと、持ち家にしろ賃貸にしろ「耐震ドア」をつける(または付いているのを借りる)のも手ですね。これはどんなに建物がひしゃげても(マンションだからひしゃげない、なんてことは全くありません。波打ったようになったマンションいくらでもあります)ひしゃげないドアとして売り出されています。とにかく外に出られる。または玄関にあるものが取り出せる。これは大事なことです。

 


断っておきますが、ボク個人の意見です。
やっぱり乾パンは役に立ったと言う方もいるでしょうし、地震保険がいっぱいおりたと言う方もいるでしょう。まぁ参考までに、ということで。
少しでもお役に立てたら幸いです。

97.3.15記(02.9.1一部改訂)



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