瀬戸内寂聴vs塩野七生「人生を語ろう、愛を語ろう!」
「現代ビジネス」創刊記念対談〔前編〕瀬戸内 ついさっきまで新潮社の編集者がいて、「塩野さんの本は売れて売れて、わが社のドル箱です」といっていました。
日本を代表する2人の女性作家が初めて会って・・・
塩野 そんなことありません。ある編集者が話していましたけど、瀬戸内先生が全国区なら塩野七生は地方区だってーー。『源氏物語』はどれくらい売れたんですか。
瀬戸内 全10巻でわたしが覚えているだけで260万部こえています。講談社の新社屋の階段の一つくらいはわたしの『源氏物語』でつくれたでしょう(笑)。あなたの『ローマ人の物語』はもっと凄いでしょう。
塩野 いえいえ、わたしのは15巻ですが、そんなことはありません。
瀬戸内 『ローマ人の物語』は売れたでしょう。わたしたちはシーザーとかクレオパトラをちょこっと知ってるけど、通しての物語としては知らないでしょう。15年かけてあれだけの大作をお書きになったのはほんとに立派です。やっぱり男の読者が多いんですか。
塩野 ところがこのごろ女の人も読んでくれます。昔は4対1くらいだったんですが、いまでは5対5なんです。
先生は人前でしゃべることって何ともないんですか。
瀬戸内 それはもう自分でいやになるくらい慣れています。
塩野 羨ましいですね。わたしはどうもみんなの前でのおしゃべりが苦手なんです。とくに瀬戸内先生のように8千人とか1万人とかの前ではとてもわたしにはできません。そういう人たちって先生に何を求めているんですか。
瀬戸内 それがこっちはわからないの。例えば天台寺という東北(岩手県二戸市)の荒れ寺を引き受けましたでしょう。そこはまったくお金がないんですよ。とにかく人が来てくれなきゃ困ると思って法話ということを考えたんです。わたしは50すぎてから仏門に入ったのでお経は下手ですが、話すことなら講演してるからできると始めたんです。そしたらマスコミが頼みもしないのに動いてくれて、ふたを開けたら山に千人も人が来たんです。次の月はもっとワーッと宣伝してくれたから、5千人、6千人と、あっという間に多いときはあの狭い境内に1万人を超す人が集まるんですよ。
塩野 なんかローマ法王みたいじゃないですか(笑)。