前科で犯罪立証認めず 最高裁が初判断
被告が犯人であることを立証するために同種の前科を証拠にすることができるかが争われた放火事件の上告審判決で、最高裁第2小法廷(裁判長・竹崎博允長官)は7日、証拠採用は原則として許されないとする初判断を示した。同小法廷は「根拠の乏しい評価によって誤った事実認定に至る恐れがないときに初めて証拠にできる」と述べた。
前科の記録は被告の情状に関する証拠にはなり、量刑では考慮される。犯罪を立証する証拠にできないことは学説ではほぼ一致しているが、日本の刑事裁判は事実認定と情状の審理を分離しないのが通例のため、検察側に前科立証を緩く認め過ぎているとの指摘もあった。今回の一審は裁判員裁判で行われており、最高裁は、審理に参加する市民にわかりやすいように証拠取り扱いの原則を示した形だ。
判決理由で同小法廷は、前科を証拠にすると「被告の犯罪性向といった実質的根拠の乏しい人格評価につながりやすく、事実認定を誤らせるおそれがある」と指摘。
犯行を裏付ける証拠として使えるのは(1)前科の犯罪事実に顕著な特徴がある(2)前科と本件の起訴内容が相当程度類似している――場合に限られると具体的基準を示した。
その上で判決は、前科に関する証拠を調べなかった一審・東京地裁の手続きを違法とした二審・東京高裁判決を破棄。前科を証拠とせずに事実認定し、量刑を改めて判断させるため、審理を同高裁に差し戻した。判決は4裁判官の全員一致。
判決を受けたのは、空き巣に入ったアパートに火を付けたとして現住建造物等放火や窃盗などの罪に問われた無職、岡本一義被告(42)。
一審は「裁判員に不当な偏見を生む恐れがある」として前科に関する検察側の証拠申請を却下し、放火を認定せず懲役1年6月(求刑懲役7年)とした。二審は「前科の手口に類似性がある」として一審を破棄、地裁に差し戻す判決を出した。
裁判員裁判判決の差し戻しは初めてだったが、弁護側が上告。弁護側は上告審で「室内に灯油をまいて火を付けるのは犯人を識別できるほど特殊な手口とはいえず、前科を証拠とするのは許されない」と主張していた。
同小法廷の審理は、検察官出身の小貫芳信裁判官が回避し、普段は小法廷審理に加わらない竹崎長官が裁判長を務めた。
原告弁護人の高野隆弁護士の話 我が国の歴史に大きな足跡を残す判例で満足している。
岩橋義明・最高検公判部長の話 主張が認められなかったのは誠に遺憾だが最高裁の判断なので真摯に受け止めたい。