「絶滅」ヨウスコウカワイルカの目撃情報、中国

2002年以降目撃されていない幻のイルカ、専門家は懐疑的

2016.10.14
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中国に生息していたヨウスコウカワイルカ(学名:Lipotes vexillifer)。2000年代初めに個体数の維持・回復能力を失った「機能的絶滅」を宣言された。(PHOTOGRAPH BY AVALON, ALAMY STOCK PHOTO)
中国に生息していたヨウスコウカワイルカ(学名:Lipotes vexillifer)。2000年代初めに個体数の維持・回復能力を失った「機能的絶滅」を宣言された。(PHOTOGRAPH BY AVALON, ALAMY STOCK PHOTO)
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 個体数の維持・回復能力を失った「機能的絶滅」を10年前に宣言されたヨウスコウカワイルカ。今月、中国東部の長江で民間の保護活動家が目撃したと報じられた。

 英紙「ガーディアン」と、中国政府出資のネットメディア「シックス・トーン」に掲載されたインタビューによれば、保護活動家のソン・チ氏は、このほど7日間にわたりヨウスコウカワイルカを捜索。10月4日にその姿を目撃したという。「長江からあんな風に跳び上がれる生物はヨウスコウカワイルカ以外にはいません。漁師も含め、目撃者全員が間違いないと感じました」と、ソン氏は語る。

 まだ裏付けはないが、この目撃報告が本当なら、生物学者たちにとって衝撃となる。この白いイルカは小型で目がほとんど見えない。2000万年にわたって長江に生息し、「長江の女神」と呼ばれていたが、2000年代初めにほぼ姿を消した。2006年、研究者たちが6週間かけて調査したが1頭も確認できず、「機能的絶滅」が宣言された。

20世紀後半に激減

 ヨウスコウカワイルカの個体数が落ち込んだのは20世紀の末だ。1979~1981年には400頭前後だった個体数が、1990年代後半にはわずか13頭にまで激減した。地元の漁業で、網に絡まるなどして意図せず捕獲されてしまうのが主な要因だが、ボートとの衝突、ダム建設、川沿いにある無数の化学工場からの汚染なども減少に拍車をかけた。(参考記事:「絶滅寸前の巨大スッポン死ぬ、残るは3匹のみ」

 ヨウスコウカワイルカの確実な目撃例は2002年を最後に途絶えている。2007年にも目撃報告があり話題となったが、スナメリだったと後に判明した。絶滅が確実となった大型水生哺乳類のうち、ヨウスコウカワイルカは最も新しい例であり、1950年代に狩猟や魚の乱獲でカリブモンクアザラシが絶滅して以来のことだ。

 ソン氏自身はヨウスコウカワイルカの専門家ではなく、目にしたのがヨウスコウカワイルカだと証明はできないと認めている。また、ソン氏らのグループは決定的な写真も撮影していない。ロンドン動物学会の保全生物学者サミュエル・ターベイ氏も、ガーディアン紙へのEメールで疑問を投げかけた。

「絶滅したとみなされている種が生きているかもしれないという思い切った主張には、揺るぎない証拠が必要です。ヨウスコウカワイルカが絶滅していないという強力な証拠があってほしいと私も心から願っていますが、今回の報告はそうではありません」とターベイ氏は記している。同氏は、ヨウスコウカワイルカの機能的絶滅が宣言された2006年の調査に参加していた。

長江のスナメリに注目すべき

 ターベイ氏は続けて、むしろ長江に生息するスナメリに一般の関心が集まるべきだと指摘した。長江のスナメリは、中国国内で唯一生存が確認されている淡水のクジラ目なのだ。(参考記事:「コガシラネズミイルカが60頭に激減、絶滅のおそれ」

 国際自然保護連合(IUCN)が発表している、絶滅の恐れのある生物種のレッドリストによると、長江のスナメリは近絶滅種(critically endangered)に指定され、最新の個体数は500~1800頭という差し迫った状態だ。学術誌「バイオロジカル・コンサベーション」に今年掲載された研究結果は、迅速な対応を取らない限り、長江のスナメリは遅くとも2041年に絶滅する可能性があると警告している。(参考記事:特集「アマゾンカワイルカ」

文=Michael Greshko/訳=高野夏美

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