「先住民の神話では、この急流は太陽神の住まいとされています」
英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの考古学者フィリップ・リリス氏は語る。「別の神話では、(全ての動物と植物を生んだ)世界樹が倒れたとき、その樹冠がオリノコ川に落ち、急流を作ったとされます」
リリス氏が言う「急流」とは、南米ベネズエラの西部を流れるオリノコ川の「アチュレス急流」のこと。この川の、ボートではそれ以上進めないという地点に5つの島があり、そこに岩絵が描かれている。規模も内容の具体性も、世界屈指の岩絵だ。
この一帯は現在も様々な活動の要衝となっているが、2000年前も同様だったと考古学者たちは考えている。
岩絵に関するリリス氏の研究は、学術誌「Antiquity」にこのほど発表された。その中でリリス氏は、この急流が「民族、言語、文化が集まる場所」だったと指摘している。
岩絵には、多様なモチーフがよく似た様式で彫られている。考古学者たちは、かつてここがにぎやかな中心地であり、さまざまな集団が多く行き交っていたと推測する。今回、リリス氏らユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの考古学者チームは、これまでで最も詳細かつ大規模な岩絵の目録を作り上げた。チームは今回の記録を使い、この地にヨーロッパ人がやって来る前の多様な文化をより大局的にとらえたいと考えている。(参考記事:「8000年前の赤ん坊の手形、実はトカゲの足?」)
ハイテクカメラが不可欠
岩絵の画像データを集めるため、リリス氏は写真測量カメラを取り付けたドローンを使った。写真から被写体を3次元で描画できるハイテクカメラだ。(参考記事:「大迫力、空から至近距離で撮ったハワイの溶岩 10点」)
ドローンが最適のツールだったとリリス氏は話す。彫刻の中には途方もない大きさのものがあり、地上から見渡すのは難しいからだ。「未調査だったある場所では、それが巨大な彫刻の一部だと気付かずに、クリーニング作業をしていたことがありました」とリリス氏。
わかっている中で最大の絵は、角のあるヘビだ。端から端まで約30メートルある。絵がたくさん描き込まれた別の区画はおよそ300平方メートル強。調査の結果、この区画には少なくとも93個の彫刻があり、幅が数メートルの物もあった。
リリス氏によると、人間と動物の描写は、アチュレス急流でよく見つかるモチーフだという。(参考記事:「最古の犬の絵か? 狩りやペットの歴史にも一石」)