「非接触部族」マシコ・ピロ族、頻繁に出没の謎

周囲と接触しなかった部族は、なぜ姿を見せるようになったのか

2015.10.27
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マシコ・ピロ族のメンバー。ペルーのアマゾンの森に住み、アルト・マドレ・デ・ディオス川の河岸に定期的に出没する。2015年7月に撮影。(PHOTOGRAPH BY RON SWAISGOOD)
マシコ・ピロ族のメンバー。ペルーのアマゾンの森に住み、アルト・マドレ・デ・ディオス川の河岸に定期的に出没する。2015年7月に撮影。(PHOTOGRAPH BY RON SWAISGOOD)
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 ペルーの美しい村、シペチアリ。緑豊かなこの村を通る曲がりくねった山道に突如、鋭くとがれた2mの竹槍を装備したマシコ・ピロ族が現れた。

「なぜ私を殺そうとするの?」
 1月に初めてマシコ・ピロ族に遭遇したシペチアリ村のルフィナ・リヴェラ副村長――小柄ながら、威圧的な女性だ――は、そう叫んだ。

 その後も、彼らの来訪は続いた。アルト・マドレ・デ・ディオス川から歩いて1時間。アマゾンのジャングルの奥深くの静かな村から、鍋やなたが消えていた。

 3月には、ひとりの老女が狙われた。1本の矢が、老女のスカートをかすめて飛んでいった。5月の初めには、村の男たちが出かけたすきを狙って、マシコ・ピロ族がやってきて農作物を奪った。レオ・ペレス氏と友人は、デジタルカメラを持って侵入者が農作物を奪った場所に急行した。ペレス氏がカメラをのぞき込んだとき、友人は矢の音を聞いた。「危ない!」 警告の言葉を発したものの、時すでに遅く、22歳のペレス氏は命を落とした。

「非接触」だが未知ではない

 「非接触」部族として知られ、1世紀以上孤立して暮らしてきたと考えられるマシコ・ピロ族が、最近になって姿を見せるようになった。依然として不可解な部分はあるものの、巷で言われるほど謎が多いわけではない。ペルーに住む推定600~800人のマシコ・ピロ族は、同国南東部の先住民族と、何度か接触しているのだ。

周辺地図(SOURCES: RED AMAZÓNICA DE INFORMACIÓN SOCIOAMBIENTAL GEOREFERENCIADA (RAISG); MINISTERIO DEL AMBIENTE (MINAM), PERU)
周辺地図(SOURCES: RED AMAZÓNICA DE INFORMACIÓN SOCIOAMBIENTAL GEOREFERENCIADA (RAISG); MINISTERIO DEL AMBIENTE (MINAM), PERU)
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 最近の接触では、川を進むボートを呼び止め、食料、衣服、なたなどの道具を求めた。住民たちは、マシコ・ピロ族の女性や赤ん坊を差し出されたり、ジャングルの野営地に遭遇したり、釣りの最中に矢の襲撃を受けたりしてきた。マシコ・ピロ族は泳ぎが苦手だが、木登りに長けている。また、竹筒の中で果実を発酵させて酒を造る風習があるほか、森の植物や動物にちなんで自分たちの名前を付けると言われている。

 昨年からマシコ・ピロ族の出現が急激に増えており、同時に攻撃性も増している。その結果、ペレス氏の死や2つの村の撤退などが起き、ペルー政府が介入するまで事態が発展している。

 ペルー文化省は、シペチアリ村近くのアルト・マドレ・デ・ディオス川沿いに管理棟を持ち、政府保護官のチームが川を連日パトロールしている。先住民管理を担当するロレナ・プリエト氏は、「私たちの目的は、先住民の命、健康、自決の権利を守ること。これ以上、待つことはできません」と話す。

 孤立した部族との急激な接触は、暴力や疾病が引き金になって部族が全滅するリスクをはらむ。なぜなら、ジャングルの免疫システムは、インフルエンザやはしかはおろか、普通の風邪にさえも対応できないほどだからだ。

 そのため、政府は管理下での接触計画を立てているが、これがマシコ・ピロ族のうち孤立する権利を主張するグループから猛反対を買っている。しかし、マシコ・ピロ族の側からすでに接触が始まっているという事実を無視することはできないだろう。「彼らは、身を隠し接触を拒絶することに多大なる努力をしてきた部族です。でも今は、そこから抜け出そうとしている」と、ブラジルにあるゲルディ博物館の人類学者で、この地域の先住民を研究しているグレン・シェパード氏は語る。(参考記事:「アマゾンの闘う先住民 カヤポ」

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