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防風林アートプロジェクト(4)

2014年02月12日 21時54分00秒 | 展覧会の紹介-現代美術
(承前)

 続いて、中央の通りを南北に貫く白樺の防風林沿いに設置された作品を紹介します。


 冒頭の画像は、林弘尭「回路(Circuit)」
 シラカバの幹に、50メートルにわたって色テープを取り付けたインスタレーション。

 林さんは北見在住で、道展だけを見ている人はわからないでしょうが、北見地方の現代美術を長年にわたって牽引してきた作家です。一昨年からの「置戸コンテンポラリーアート」でも実行委のひとりとしてフル回転し、とてもことし74歳になるとは思えません。
 昨年、第500回(!)展を開いた「グループ斜面」の創立メンバーでもあります。

 今回のは、昨年の置戸コンテンポラリーアートと同様の、テープによるシンプルなインスタレーション。
 ただし、盆地の北見・置戸地方にくらべると、風が強すぎるせいか、優雅に風を受けてなびくという感じではありません。




 梅田マサノリ「とるねーど もしくはツリーホームレス」
 梅田さんは実行委事務局で、防風林アートプロジェクト開催に向けて奔走してきた中のひとりです。

 筆者は、最初見たときには作品とは気づかず、元からこの場所にあった小屋だとばかり思っていました。板などは、この近くで拾ってきたものだそうです。
 なんだかすっかり周囲の風景に溶け込んでいます。




 阿部安伸「The Sound of Silence」
 阿部さんは帯広在住の若手。
 ふだんは平面作品に取り組んでいます。

 防風林を吹きすさぶ風の音を、視覚化したインスタレーション。
 擬音を形にする作品では、キーボーこと高橋喜代史さん(札幌)の前例がありますが、ホワイトキューブ内でどーんという迫力ある作品を見るのと、雪原の中にひそかに置かれているのを見るのは、やはり見る側の体験の質が違うといえそうです。
 作品自体に造形上の何かがあるというより、これを見たときに、あらためて風の存在に気づかされる、そんなきっかけを与えてくれる作品なのかもしれません。




 潮田うしおだ友子「Summer garden and winter gift」
 潮田さんは東京からの参加。

 十勝に来るのは3度目で、過去2度はいずれも夏だったので、季節の巡りを意識した作品になっています。
 とてもシンプルで美しいインスタレーション。ステンドグラスのような色セロファンをシラカバの木々の間に点在させています。
 透過した光が、雪の上に映るのも、美しいです。 




 下沢敏也「Re-birth」
 札幌の陶芸家。「再生」をテーマに力強いインスタレーションを作り続けています。

 下沢さんは、設置場所がどこであっても、作品それ自体の持つ力で、かなり「押していく」ことのできる作家だと思います。
 ただ、今回は、雪原の下が土であることに、あらためて思いを致すような作品といえるかもしれません。
「球根が土を割り出し、生命となって、外側に出て行く、農地とつながる、そんなものを作った」 
 
 単純に、芽のメタファー(比ゆ)にとどまらない、モニュメンタルな力を宿した作品です。



 黒っぽい陶片を上から見た図。




 阿部典英「モシカシタラあるいは隆起」 
 70代を迎えても道内外で実に精力的に制作・発表を続ける「アベテン」こと札幌の阿部さんです。

 今回は1980年作の再制作。
 「真っ黒な雪の塊を作ろうとしたが、今年は雪が少なくてダメ」
ということで、素材はウレタン。
 しかし、軽い質感を感じさせない、堂々とした隆起に見えてきます。
 

 伊等華織「ここにはない場所」
 伊藤さんは東京在住。
 本職は写真家で、昨年の置戸コンテンポラリーアートでも印象的な組写真を発表していました。

 この近くに、富田俊明「沙漠と詩人」がありましたが、写真を撮ってくるのを忘れていました。
 富田さん、すみません!
 富田さんの帯広市民ギャラリーでの作品は、こんどの防風林から、20年ほど前に中央アジアのタクラマカン砂漠を2カ月かけて一周していた頃に見た、オアシスのポプラを思い出したそうで、「二つの風景を重ね合わせるような作品を作りたい」と、当時の日記などが出ていました。


 ところで、梅田マサノリさんにお聞きしたのですが、このシラカバ防風林は、かつて帯広―中札内―忠類―大樹―広尾を結んでいた約84キロのローカル線「広尾線」の跡なのだそうです。

 国鉄広尾線は、1900年(明治33年)に建設運動が始まり、大正年間に着工が決定。
 関東大震災の影響で遅れたものの1924年(大正13年)に着工となり、1929年(昭和4年)に、この区間をふくむ帯広・中札内間が開通。32年に全線開通しました。その後、日高地方との接続に向けて測量も始まったのですが、戦争で建設には至らず、87年には赤字ローカル線廃止の一環で、バス転換となっています。(この項、田中和夫「北海道の鉄道」などを参考にしました)

 広尾線で忘れられないのは、1973年ごろから「愛国―幸福」の乗車券や幸福駅の入場券が大ブームとなったことです。
 まさにこの防風林会場は、愛国駅から北に数キロの地点にあるのですが、いまは当時のにぎわいをしのばせるものもなく、ひっそりと木々が風に揺れています。


第21回北見創作協会芸術祭参加 Art Wave H2 +8 What are we doing? (2012)
第50回記念オホーツク美術展 (2012)
置戸コンテンポラリーアート (2012) =林さん出品

*folding cosmos 2013 「松浦武四郎をめぐる10人の作家達」 (2013) =下沢さん、梅田さん出品
置戸コンテンポラリーアート (2012) =梅田さん出品

□阿部安伸 website http://www.geocities.jp/psychedelic_atmospheres/
六花ファイル第3期収録作家作品展 阿部安伸 While you say what's my beauty,please close your eyes. (2012)

紋別市立博物館開館10周年記念企画展「器の世界~原始土器から現代陶芸へ」 (2012)=下沢さん出品
下沢敏也「ハルカの土ヲ焼ク・2011」 ハルカヤマ藝術要塞

WAVE NOW 2008 =阿部さん出品
【告知】阿部典英展 心の原風景 海への回帰 (2012)




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