北海道美術ネット別館

アート、写真、書など展覧会の情報や紹介、批評、日記etc。毎日更新しています

■井桁雅臣展(9月8日まで)

2008年09月07日 00時09分13秒 | 展覧会の紹介-現代美術
 凹凸のある半立体の支持体に抽象画を描く作家として知られていた井桁さんの個展は、じつに9年ぶりだそうです。

 96年には芸術の森美術館(現札幌芸術の森美術館)企画の「北の創造者たち」展に、2001年には國松明日香さん、大井敏恭さんらからなるグループ展「HIGE TIDE」展に出品するなど、活溌に活動してきました。
 しかし、ご本人によると、半立体の支持体制作はつらく苦しい作業だったそうです。2001年の「HIGE TIDE」の際に、今回の個展で全面展開しているステイニング(しみこませ)の技法による作品を思いつき、ずっと試行していたというのです。

 井桁さんは以前から、米の抽象表現主義の巨匠モーリス・ルイスが好きで、今回の個展で多大なヒントを得たことも、隠すつもりはないと話しておられました。
 一見、絵の具をでたらめにしみこませているようにも見えますが
「けっこうむつかしくて、しみこみすぎてもやり直しがきかないので、だめにしたキャンバスもあります。満足するかたちを得るまでに、鬼のようにデッサンを繰り返さなくてはいけない。でも、それは、自分が描いてるという感じがして、楽しいんです」
とのことです。

 絵の具をしみこませる技法は、ルイスのほかにもフランケンサーラーやロスコが知られていますし、道内では杉山留美子さんの非常に美しい作品があります。
 しかし、杉山さんは色彩がオールオーバーに広がっていますし、ルイスやロスコもあまりフォルムははっきりとしません。
 井桁さんの作品は、光がキャンバスの中で動いているような、それでいて光跡のかたちがしっかりと浮かび上がるような、そんな絵だといえるのではないでしょうか。




 最新作「太陽の涙」。
 冒頭の画像で、左側にある作品です。

 会場に入ってきたとき、ぱっと明るく目に飛び込んでくるイメージのひとつです。

 この方向で制作していきたい-と井桁さんは言います。

 光を宿しているような、癒やされる画面です。なんともいえぬ荘厳な美が感じられるのです。
 それでいて、奥行き感もあります。




 会場の奥にある、比較的小さな作品。
 左の2点は「私たちは液体と光と緑色」の(I)と(II)。いずれも145.5×97センチ。


            

 右の壁にあるのは版画作品。
 おなじ版を用い、色だけ変えています。

 30センチ四方で、「Mauloa」「Lani」「Wai」「Mele」「Ua」「Pua」という、ハワイの言葉で題がついていますが、番号でつけるのも気が進まなかったのが理由だそうで、とくに意味はないそうです。


            

 大きく作風を転換した井桁さんは、他分野の人とのコラボレーションにも乗り出しました。
 いまの画風を変えてインスタレーションなどに取り組むよりも、他人との協力でちがう傾向の作品に取り組んだ方が集中できる-ということで、この画像は、ハシモトナオキさんとの「水とミルクプロジェクト」です。
 このプロジェクトは東京でも発表の予定があるそうです。
 ほかにデザイナーとのコラボレーションも計画しているとのことです。

 それにしても、このガラスのピラミッドのギャラリーって、抽象表現主義的な作品にぴったり合いますねー。
 そして、これほど外光が入ってくる会場も道内ではめずらしく、光量を午前、午後、夜で、それぞれ変えているそうです。
 夜は光量を落とすと、ぐっとロマンティックな雰囲気になるのでした。


 他の出品作は次の通り。
水のバレエ 100×100
ある光   100×100
ガーネット 100×100
チャクラ  100×100
mind fruit 194×194
君と僕とあの光のこと 194×194
僕はこの美しい庭で迷子になってしまった 72.5×72.5
8月の冷ややかな月の下 72.5×72.5


 以下、余談になりますが、井桁さんは1964年生まれで、筆者とおなじです。
 道内には大勢の美術家がいますが、50年代生まれより上の世代、60年代末より下の世代は多士済々である一方で、筆者と同世代は意外なほど陣容が手薄という印象があります。
 端聡さん・澁谷俊彦さんのすぐ下、となると、伊藤隆介さんぐらいしか思いつかないのです(ほかにいらしたら、ごめんなさい)。
 これは、単なる偶然だと思いますが、井桁さんの復活は、そういう意味でも、個人的に心強かったりします。


08年9月3日(水)-8日(月)10:00ー20:00(最終日-18:00)
モエレ沼公園 ガラスのピラミッド(東区モエレ沼公園1)


・地下鉄東豊線「環状通東駅」から、北札苗線[東69、東79]に乗って「モエレ沼公園東口」降車、徒歩9分。乗車時間も30分ぐらいかかります。休日は1時間に2本程度

・大通東1「バスセンター」から札苗線(東6)で「モエレ沼公園」降車、徒歩5分。9月以降は土、日曜・祝日のみ、9時55分と10時-16時の毎時15分発車。乗車時間は45分程度


□HIGH TIDE展 http://www.sap.hokkyodai.ac.jp/~miurake/hightide/


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。