オタマジャクシが親に「おねだり」?共食い回避で

カエルの背に登るオタマジャクシ、水たまり内の生き残り競争か

2017.05.15
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
オタマジャクシを背負って運ぶペルーのヤドクガエル。(PHOTOGRAPH BY KYLE SUMMERS)
オタマジャクシを背負って運ぶペルーのヤドクガエル。(PHOTOGRAPH BY KYLE SUMMERS)
[画像のクリックで拡大表示]

 兄弟はときにわずらわしいものだが、ヤドクガエルの一種、バリアビリスヤドクガエル(Ranitomeya variabilis)のオタマジャクシにとっては、死をもたらす存在でもある。同じ水たまりにいると、兄弟や姉妹であっても共食いをしてしまうのだ。(「謎多き新種ヤドクガエル、パナマで発見」

 このオタマジャクシが、自分からおとなのカエルの背中にヒッチハイクして兄弟間の共食いから逃れているかもしれない。その可能性が、5月5日付けの科学誌「Journal of Zoology」に掲載された論文で報告された。(参考記事:「一挙紹介、子どもを背負う動物たち」

 メスのヤドクガエルは、パイナップル科の植物など、葉の表面に雨水をたくわえる植物に卵を産み付ける。卵がかえってオタマジャクシになると、父親がやってきて、共食いを避けるために子供たちを1匹ずつ別々の水たまりに運んでいく。(参考記事:「新種のカエルを発見、オタマジャクシにならず」

 しかし、父親たちが、1つの水たまりに複数のオタマジャクシを入れてしまったり、オタマジャクシを移動させに来るのを忘れてしまったりすることもある。たいていの場合、そうした水たまりには腹一杯のオタマジャクシが1匹だけしか残らない。

「オタマジャクシは大食いです。体の大きさが同じくらいでも、相手を殺して食べてしまいます」と、米イーストカロライナ大学の進化生物学者で、ヤドクガエルの専門家であるカイル・サマーズ氏は説明する。なお、氏は今回の研究に参加していない。(参考記事:「カバを食べるカバ ――共食いする動物たち」

カエルの周りに集まってくる

 ベルギー、ブリュッセル自由大学の博士研究員リサ・シュルテ氏らは、ペルー北東部の野外研究所で、小さなプラスチック製の容器15個に雨水を入れ、バリアビリスヤドクガエルが産んだ卵を2~4個ずつ孵化させて実験を行った。(参考記事:「新種の毒ガエルを鳴き声で発見、ペルー」

 初めのうちは、オタマジャクシを分けずに一緒に飼育した。このとき、オタマジャクシとカエルはまだ接触させない。

 次に、毎日ランダムに、3種のカエルを15個の容器のいずれかに入れた。実験に使ったカエルは、オタマジャクシと同じバリアビリスヤドクガエルのオスとメス、同じヤドクガエル科ヤドクガエル属で近縁のマネシヤドクガエル(Ranitomeya imitator)のオス、そしてヤドクガエル科ではあるが属は異なるヒロクサルス・ネクシプス(Hyloxalus nexipus)のオスで、どれも体長は2cmほどだ。(参考記事:「マネシヤドクガエル、別種へ分化中か」

 研究チームは、容器でのカエルとオタマジャクシの行動をビデオに録画し、映像を分析した。ほとんどのカエルが容器を出ようとする間に、どのオタマジャクシも、種を問わず、カエルの周囲に集まった。

 さらに、カエルの背中に飛び乗ろうとしたオタマジャクシもいて、2匹が成功したという。1匹は同種のカエルに乗ったが、もう1匹はマネシヤドクガエルだった。(参考記事:「クジラに乗ったイルカほか、動物おんぶ写真を一挙掲載」

【動画】カエルを探す。(解説は英語です)

 オタマジャクシがこうした行動を見せるのは、同じ水たまりにいるオタマジャクシの間に、最初に救出されようという競争が存在するからかもしれない。

 そして野生環境では、オタマジャクシたちの水たまりに来るのは、通常、その親ガエルだ。カエルたちは睡眠をとるために同じ水たまりに戻ってくるからだ。つまり、同じ巣の鳥のひなたちが我先にとそうするように、親に対してねだる(begging)行動である可能性があると研究者たちは考えている。

ニセモノの背中には乗らない

 オタマジャクシたちは異なる種のカエルの背中には乗ったが、乗れるものならなんでもいいというわけではなかった。

 追加の実験として、研究者たちが3Dプリンターで製作したカエルの模型を容器に入れてみたところ、オタマジャクシたちは乗ろうとしなかった。

 なぜだろう? カエルの模型が不自然だったせいかもしれないし、オタマジャクシが視覚以外の感覚(例えば化学物質)によって相手を認識しているせいかもしれない。オタマジャクシの行動が何によって引き起こされるかは、行動のタイプと意味を理解するためには重要だが、この点についてはまだ研究の余地がある。(参考記事:「絶滅したカエルを140年ぶりに再発見、卵で子育て」

 米ニューヨークのセント・ジョンズ大学の生物学者フアン・サントス氏も、この研究はおおむねよいものだとしながらも、大きな欠点がひとつあると指摘する。オタマジャクシがカエルの背中に飛び乗る行動が数回しか観察されていないからだ。

 この研究では、オタマジャクシはカエルに近づいていくものの、背に乗る様子が見られた回数はわずかだった。そのため、カエルの背中に乗る行動を一般的なものと考えるのは早計だ。

 サントス氏は言う。「この行動が普遍的なものだと明らかになったとはまだ言えないようです」

文=Joshua Rapp Learn/訳=三枝小夜子

  • このエントリーをはてなブックマークに追加