第1回 「新種誕生」を見にスイスアルプスへ行ってみた

 スイス山間部のとある村で、20世紀になってから進化して新種になった植物が見つかったという。スイス・チューリッヒ大学「進化生物学・環境学研究所」の清水健太郎教授は、この新種植物を研究し、進化の謎を解き明かそうとしている。

 そのように聞いて、興奮した。

 20世紀になってからの新種! それだけでも心そそられる話だし、新種の誕生がいったいどのように起きるのか、是非知りたいではないか。

 2014年10月はじめ、大学のあるチューリッヒから、清水さんの運転で、この年最初の雪が降ったばかりの山間部の村に向かった。チューリッヒ湖畔をひとたび離れると、巨大な山塊に突っ込んで行くような道をどんどん走る。スイス・アルプスの巨大な氷河地形と、谷間にへばりついて住んでいるヒトの作る景観がなんともいえない、風光明媚なルートだった。

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 目的地には、過去150年間、おそらくは20世紀以降に現れたという新種の植物が自生している。新しい種の誕生というのは、何10万年という時間の中で起きるものだと思っていたので、今この「瞬間」にできたてほやほやの新種を見つけたというのは驚かされる。はたしてそれはどんなものか。

「アブラナ科タネツケバナ属という種類なんですが、その新種です。発見されたウルナーボーデン村は、元々、森でした。19世紀末から20世紀初めにかけて切り拓かれて牧草地になりまして、その新しい環境に適応して種分化したと言われています。いわゆる生態的種分化の例です」というのが清水さんの簡単な解説だ。

 清水さんは、その植物を21世紀になってから、注目すべき題材として科学の世界に紹介した。今を生きる我々の生態系から、ひょいと新種が生まれたところを捉えたというのだから、通常の「新種の発見」とは異質の重みがある。

チューリッヒ大学の清水健太郎教授。(写真クリックで拡大)