地球温暖化を食い止めるためには、森林の面積を増やして樹木により多くの炭素を吸収させることが必要です。ところが、増え続ける地球の人口を養うためには農地を拡大しなくてはならず、森林を伐採して農地に転換する動きが加速しています。そんな気候問題と食糧問題を一挙に解決する方法として、イギリスのスターリング大学で自然科学の名誉教授を務めるポール・トーマス氏らの研究チームは、「森林と一緒にキノコを育てること」を提案しています。

Edible fungi crops through mycoforestry, potential for carbon negative food production and mitigation of food and forestry conflicts | PNAS

https://doi.org/10.1073/pnas.2220079120



Growing mushrooms alongside trees could feed millions and mitigate effects of climate change, research finds | About | University of Stirling

https://www.stir.ac.uk/news/2023/march-2023-news/growing-mushrooms-alongside-trees-could-feed-millions-and-mitigate-effects-of-climate-change-research-finds/

Planting This Could Feed Millions And Lock Away Tons of Carbon : ScienceAlert

https://www.sciencealert.com/planting-this-could-feed-millions-and-lock-away-tons-of-carbon

トーマス氏らによると、2010年〜2020年における全世界の森林面積は年間約470万ヘクタールも減少しており、森林伐採を推進する最大の要因は農地の需要だとのこと。地球温暖化を食い止めるためにはより多くの木々を植える必要がありますが、増え続ける人間に食糧を提供するためには木々を伐採しなくてはならず、ここにジレンマが生じています。

この流れを食い止めるため、トーマス氏と同僚のアラステア・ジャンプ氏の研究チームは、食用キノコの一種であるラクタリウス・インディゴに注目して研究を進めてきました。食用キノコは食物繊維や必須脂肪酸に加えてタンパク質も含んでおり、食肉や魚といったタンパク質源の代わりとなる可能性があるそうです。



by George Wesley & Bonita Dannells

ラクタリウス・インディゴは生きた木と共生して成長することができるキノコであり、コスタリカからアメリカに至るまで幅広い地域で栽培することが可能です。トーマス氏らによると、森林を伐採した農場で食肉にするための牛を飼育した場合、1ヘクタールあたり年間4.76〜6.99kgのタンパク質が生産されるとのこと。これを生きた木々とラクタリウス・インディゴの組み合わせに置き換えると、森林による炭素吸収能力を維持したまま、同じ土地面積で年間7.31kgのタンパク質を生産できると主張しています。

また、キノコは長期間にわたり土壌に炭素を貯蔵することが可能であり、家畜と異なって大量の肥料や水、飼料などの資源を投入する必要がありません。トーマス氏らは、地上で収集したデータやリモートセンシングによる森林面積データを組み合わせた分析により、森林における大規模なキノコ栽培が1ヘクタールあたり年間12.8トンの炭素を隔離する可能性があると報告しています。

YouTubeでは、トーマス氏らがキノコ栽培の可能性について語る動画が公開されています。

How Mushrooms Can Feed Millions While Fighting Climate Change - YouTube

「私たちはMycoforestry(マイコフォレストリー)の作業についての論文を発表しました。これは生きた木々と共にキノコを育てることであり、人々を養うと共に気候変動を緩和するポテンシャルがあります」と語るトーマス氏。



ジャンプ氏は、「私が最も興奮したのは、マイコフォレストリーが食糧と森林管理の間の衝突を緩和できる道筋を与えるということです」と述べています。



森林と同じ場所で食糧となるキノコを育てることで、野心的な植林目標の達成と食糧の供給を両立できる可能性があるとのこと。



植物を栽培する農業は一見すると炭素排出量が少ないように思われますが、最も炭素排出量が少ない穀物や豆類でさえトータルで見れば吸収量より排出量のほうが多くなります。



しかし、木と共に栽培するキノコなら、食糧を生産しつつ炭素を大気中から取り込むことが可能です。もし、2010年〜2020年の間に全世界で行われた植林と共にキノコが栽培されていたら、炭素を貯蔵しつつ年間1890万人分のカロリーを生産できた可能性があるとトーマス氏は主張しています。



既に、技術的にはキノコの胞子を苗木に接種することが可能であり、後は商業化とスケールアップが必要な段階だとのこと。トーマス氏は、「この食糧生産システムは拡張性が高く現実的で、温室効果ガスを吸収するための強力な手段となり得ます。また、農村部の社会経済は点を促し、植林率の向上とそれに伴うあらゆるメリットをもたらすインセンティブを提供できます」と述べました。