2015.01.12
# 雑誌

職人・竹鶴政孝(マッサン)と天才・鳥井信治郎(鴨居の大将)「本当の関係」
NHK朝ドラ『マッサン』ではよくわからない

週刊現代 プロフィール

スコッチのような本格ウイスキーしか頭にない理想主義のマッサンにとって、今でいうハイボールのような「ウイッキー」は邪道としか思えなかったのだろう。

コラムニストの桧山珠美氏は、「マッサンはいまでいうところの『ダメンズ』です」と断言する。

「ここのところマッサンのウジウジして煮え切らない部分が描かれていて、視聴者たちからブーイングが起きています。嫁エリーをいじめる母親に頭が上がらず、流産して落ち込んでいる嫁に『ちゃんと仕事に行って』と逆に気遣われる始末。

一方、鴨居の大将はアイディアマンで、人間的にも面白い。仕事一筋に見えても、男としての優しさも垣間見えて、女性にもてそうですね。二人は対照的な性格だと思います」

生まれ育ちも気性も異なる二人は協力して日本初の本格的ウイスキーを生み出すが、やがて袂を分かち、ニッカ(竹鶴)とサントリー(鳥井)という日本を代表するウイスキーの二大潮流を作ることになる。現実の竹鶴と鳥井は、どのような関係を結び、洋酒文化の礎を築いたのだろうか?

竹鶴政孝は広島県竹原で酒造・製塩業を営む商家に生まれた。大きな商いをする名家である。大阪高等工業学校(現・大阪大学工学部)で醸造技術を学び、大阪の摂津酒造に就職、社費でスコットランドに留学した生粋のエリート技術者。よいウイスキーとはなにか、なにが本質なのかということをとことん突き詰めるタイプの職人肌だった。生前の政孝をよく知る孫の竹鶴孝太郎氏が語る。

「小学生の私を相手にしたときでも、祖父は『ラベルに騙されないで本質を見極めろ』と繰り返しました。日本ではまだまだイミテーション・ウイスキーが主流だった時代に、苦労して本格的なウイスキーを作り続けてきた祖父らしい言葉だと思います。

最も強烈に残っている思い出は、やはり祖母が亡くなったときのことです。祖父は大泣きしながら家中をうろうろし狼狽していました。普段はとても豪快で、大声で周りに命令をする祖父でしたから、子供心にショックだったことを覚えています」

ドラマでは、マッサンはウイスキー造りと愛妻エリーにしか興味がないような男として描かれているが、あれは現実そのものだったのかもしれない。

売れなければ意味がない

対する鳥井信治郎は大阪・船場の丁稚上がり。生粋の商人だ。著書に『サントリー対キリン』があるジャーナリストの永井隆氏は語る。

「戦前の日本では、まだまだ大阪が経済の中心地でした。とりわけ船場には新しい商売を始めようという、今でいうベンチャー精神が充溢していた」

そんな場所で舶来の洋酒を扱う薬種問屋に丁稚奉公した鳥井は、ブドウ酒やウイスキーなどのハイカラな酒文化に触れ、20歳のときに鳥井商店(後の寿屋、現サントリー)を創業した。

関連記事