奈良母子3人放火殺人事件・調書漏えい:草薙厚子さんの刑事責任は問われないまま医師の有罪確定へ

2012-02-17 | 社会

奈良・調書漏えい:医師の有罪確定へ…最高裁上告棄却
  奈良県田原本町で06年に起きた母子3人放火殺人事件を題材にした単行本を巡る供述調書漏えい事件で、刑法の秘密漏示罪に問われた精神科医、崎浜盛三被告(54)に対し、最高裁第2小法廷(古田佑紀裁判長)は13日付で、被告側の上告を棄却する決定を出した。漏えい行為の正当性を否定し、被告を懲役4月、執行猶予3年とした1、2審判決が確定する。裁判官4人全員一致の判断で、同罪が確定するのは統計が残る80年以降、初とみられる。
  小法廷は弁護人の上告を「上告理由に当たらない」と退けた上で「鑑定は医師の業務といえ、鑑定の過程で知り得た秘密を正当な理由なく漏らせば秘密漏示罪に当たる」と指摘した。千葉勝美裁判官は補足意見で「医師は高い倫理を要求される存在。人の秘密を漏らす反倫理的な行為は慎むべきだ」とした。
  1、2審判決によると、崎浜被告は奈良家裁の嘱託で、逮捕された長男(事件当時16歳)の精神鑑定を担当したが、長男や父親の供述調書や鑑定書などをフリージャーナリストの草薙厚子さんに見せたとして07年10月、逮捕された。
  草薙さんは調書などを大量に引用した単行本を講談社から同年5月に出版。同じく秘密漏示の疑いで告訴されたが、容疑不十分で不起訴になった。09年1月の被告の公判に証人出廷し取材源が被告だったと明かした。
  被告側は、鑑定は医師が行う業務に当たらないとして同罪の成立を一貫して否認。また、少年の利益を図るための取材協力として調書を見せたことに正当性はあったと主張したが、小法廷はこの点については判断を示さなかった。
  1審・奈良地裁判決(09年4月)は、医師の鑑定は業務に当たると認定。その上で、取材協力であっても直ちに違法性は排除されず、取材の目的や手段の正当性などから判断すべきだとしたが、被告のケースでは「プライバシーへの配慮を欠いた」として正当な理由とは認めなかった。2審・大阪高裁判決(09年12月)も1審判断を維持した。【石川淳一】
  ◇間違っていなかった
  崎浜被告の話 主張が受け入れられなくて残念だ。裁判としてはこれで終わったが、私のやった行為は間違っていなかったと現在も思っている。
  ◇憲法に関わる論点に触れず残念
  弁護人の堀和幸弁護士の話 違法性や公訴権乱用という憲法に関わるような論点について一切触れていないのは極めて残念。
  ◇大変残念
  草薙さんの話 崎浜先生の行為は正当であったと今でも確信している。上告が認められなかったことは大変残念だ。
 毎日新聞 2012年2月15日 20時28分(最終更新 2月15日 23時50分)


供述調書漏洩「僕はパパを殺すことに決めた」=売らんかなの底意が透けて見える 2009-04-16 | 社会
 供述調書漏洩で精神科医に有罪判決 「僕はパパを殺すことに決めた」
 2009.4.15 13:32
 奈良県田原本町の医師(50)宅放火殺人の供述調書漏洩(ろうえい)事件で、秘密漏示罪に問われた精神科医、崎浜盛三被告(51)の判決公判が15日、奈良地裁で開かれ、石川恭司裁判長は懲役4月、執行猶予3年(求刑懲役6月)を言い渡した。
 最高裁によると、記録が残る昭和53年以降、秘密漏示罪の判決宣告は初めて。報道・出版の自由や取材源の秘匿をめぐり論議を呼んだ異例の事件は、調書が引用された「僕はパパを殺すことに決めた」(講談社)を出版したフリージャーナリスト、草薙厚子さん(44)の刑事責任は問われないまま、取材源のみが有罪とされる結果となった。
 弁護側は、崎浜被告が草薙さんに調書などを見せたことは認めたものの、放火殺人事件の少年審判で精神鑑定を担当した医師の長男(19)に殺意はなかったことを社会に理解してもらうためで、正当な理由があったと主張。さらに治療行為を行わない鑑定人は秘密漏示罪の対象となる医師には当たらないとして、無罪を訴えた。
 これに対し検察側は「少年法の精神を破壊した前代未聞の事件で極めて悪質」と指弾。同罪の法定刑の上限である懲役6月を求刑していた。
 判決によると、崎浜被告は平成18年10月5~15日、京都市の自宅やホテルで、3回にわたり草薙さんらと面会。奈良家裁から鑑定資料として貸与された長男や父親らの供述調書を見せるなどし、業務上知り得た秘密を不当に漏らした。
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崎浜被告「間違ったことしていない」 供述調書漏洩で有罪判決
2009.4.15 13:33
 「自分のしたことは、間違っていない」。奈良地裁で15日、判決が言い渡された医師宅放火殺人の調書漏洩事件。秘密漏示罪に問われた崎浜盛三被告(51)は、供述調書を見せた自身の行為が信念に基づいたものであることを再三、強調していた。一方、その信念を託されたはずのフリージャーナリスト、草薙厚子さん(44)。事件のもう一人の“主役”の姿は、傍聴席になかった。
 崎浜被告はこの日午後0時50分ごろ、これまでの公判と同様、弁護人らとともに奈良地裁に到着した。口を真一文字に結び、ダークスーツに白いシャツ、ネクタイ姿。弁護人席の前に設けられた被告人席に腰を下ろすと、落ち着かない様子で午後1時10分の開廷を待った。
 「被告人は前へ」。石川恭司裁判長に促され、証言台に進み出る。主文が言い渡された後、裁判長に一礼して被告人席に戻った。
 「『殺人者』というレッテルをはがしてあげたかった」。崎浜被告はこれまで繰り返し、自身が広汎性発達障害と診断した長男(19)への思いを口にしてきた。
 相手の感情をうまく読み取れないための対人関係の齟齬(そご)や、物事への強迫的なこだわりを特徴とする広汎性発達障害。崎浜被告は、父親を殺害しようとしながら父親不在の自宅に火を放った長男の行動の背景に、この障害があると考えた。「長男に、亡くなった3人への殺意はなかった」。だが長男の将来のために、そのことを世間に広く理解してもらおうとした行為は、草薙さんによる「僕はパパを殺すことに決めた」の出版につながった。
 調書の直接引用という意に反する形で出版され、逮捕・起訴までもされた崎浜被告。だが判決を目前にひかえた取材には、こう答えていた。
 「鑑定人として知った秘密を守ることより、1人の少年の人生を守る方が大切だという私の価値観は変わらない」
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【供述調書漏洩判決】事件が投げかけた課題
2009.4.15 21:05
 秘密漏示罪に問われた崎浜盛三被告(51)に15日、有罪が言い渡された医師宅放火殺人の調書漏洩事件。一方で、調書が引用された「僕はパパを殺すことに決めた」の著者、草薙厚子さん(44)や出版元の講談社側の刑事責任が問われることはなかった。判決は出版の自由に対する一定の配慮も示したが、取材源が有罪とされたことに識者からは改めて懸念が示されている。
 「3000枚の捜査資料に綴られた哀しき少年の肉声を公開!」。帯にこううたわれた「僕パパ」は、平成19年5月に講談社から出版。本文中、50カ所以上に長男(19)や父親(50)の供述調書が原文のまま引用されていた。
 こうした同書の内容を、自身も少年事件の記録を入手して記事にした経験のあるフリーライターは「取材源を守るのは、ジャーナリズムに携わる者として最低限のモラル。調書を引用したいという誘惑にかられるのは理解できるが、あれでは取材源よりも売り上げを優先したと言われても仕方がない」と批判。
 崎浜被告の主任弁護人の高野嘉雄弁護士も「調書が漏れるとすれば長男の付添人か鑑定人。しかし、放火殺人の被害者でもある父親から依頼を受けた付添人が、父親のプライバシーにもかかわる情報を漏らすわけがない。あの本には取材源の秘匿という意識が欠けていたとしか言いようがない」と指摘する。
 しかし、事件で立件されたのは崎浜被告のみで、草薙さんは嫌疑不十分で不起訴処分に。講談社に強制捜査が入ることもなかった。
 この日の判決で、奈良地裁は「検察官が被告人のみを起訴したことで、報道機関から受ける批判を回避したかのような印象を与えたことは否めない」としたうえで、「長男らの秘密が公表された直接の原因は同書の出版にある」と指摘。さらに、草薙さんが崎浜被告には調書のコピーをとらないとしておきながら、デジタルカメラで撮影したことを「取材におけるモラルについて問題を含む」と批判した。
 判決公判を傍聴した月刊「創」の篠田博之編集長は「出版や表現の自由がからむ問題を刑事裁判でけりをつけることに、本質的に難しさも感じた」としながらも、「有罪という結果だけでも、取材源が萎縮する可能性は高い。判決は今後の取材活動に、大きなマイナスになる」と話す。
 一方、判決を受け、講談社はA4判2枚にわたる「見解」を発表。判決を不当なものと批判しながらも、「報道に携わる者として率直に非を認めざるを得ない」「報道に対する公権力の介入を引き起こしてしまった社会的責任を重く受け止める」とした。
 取材・出版の自由や少年事件の報道のあり方をめぐり、大きな波紋を広げた調書漏洩事件。判決は、こうも指摘している。「草薙さんや講談社の取材活動の内容や出版の当否は当裁判所が判断すべき事項ではなく、報道や出版に携わる者がそれぞれの立場から行うべきである」
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【調書漏洩裁判】秘密漏示罪適用されるか
配信元:産経2009/04/10 23:05更新
 奈良県田原本町の医師宅放火殺人の供述調書漏洩(ろうえい)事件で、秘密漏示罪に問われた精神科医、崎浜盛三被告(51)の判決が15日、奈良地裁(石川恭司裁判長)で言い渡される。公判では「鑑定人」の職務をめぐり検察側と弁護側の主張がぶつかりあう一方、調書を引用した著書を出版したフリージャーナリスト、草薙厚子さん(44)の道義的責任が追及される場面もあった。報道・出版の自由に取材源の秘匿、少年のプライバシー-。事件が投げかけた問題を、関係者の声を交え振り返る。
 ジャーナリストの取材対象者が罪に問われる異例の事件の発端は、草薙さんが平成19年5月に出版した著書「僕はパパを殺すことに決めた」だった。
 「僕パパ」は、自宅に放火し母親らを殺害したとして少年院送致となった長男や、父親らの供述調書を50カ所以上でそのまま引用。家庭事情などのプライバシーも克明に記されており、父親らの告訴を受けた奈良地検が捜査に乗り出した。
 地検は同年9月、草薙さんとともに調書の流出元として、長男の精神鑑定を担当した崎浜被告の関係先を秘密漏示容疑で家宅捜索。だが、1カ月後に逮捕されたのは崎浜被告だけで、草薙さんは後に嫌疑不十分で不起訴処分となった。秘密漏示罪は対象となる職業が医師や弁護士などに限られる身分犯。地検は当初、ジャーナリストである草薙さんを崎浜被告の「身分なき共犯」に問えないか検討したが、肝心の崎浜被告は「僕パパ」の出版に関与していなかったからだ。
 だが、取材源の逮捕・起訴という事態を招いたことは波紋を広げる。草薙さんは事情聴取や記者会見では「取材源は命を差し出しても言えない」としていたが、崎浜被告の公判に証人出廷した際に、被告の「無罪に協力するため」として「●浜先生です」と証言。さらに大きな論議を呼んだ。
 一方、崎浜被告側は草薙さんに調書を見せた事実そのものは認めながらも、秘密漏示罪の法解釈をめぐり争う姿勢を示した。
 刑法はたとえ秘密を漏らしたとしても、「正当な理由」があれば罪にならないと規定。弁護側は、広汎性発達障害である長男に殺意はなかったと考えた崎浜被告が、そのことを社会に理解してもらおうとしたのは正当な行為だと主張。さらに鑑定人は治療行為を行わない学識経験者に過ぎず、同罪が規定する「医師」には当たらないとして、無罪を訴えた。
 これに対し、検察側は弁護側の主張に反論したうえで、「少年法の精神を破壊した前代未聞の事件で、極めて悪質」と指摘。同罪の法定刑の上限である懲役6月を求刑した。
 これまでほとんど適用例がない秘密漏示罪。15日に言い渡される判決は、その解釈をめぐる初の司法判断となる。 
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【社説】 鑑定医有罪 開かれた論議が必要だ
 中日新聞2009年4月16日
 過ちを犯した若者たちの将来や社会のあり方を、一部の専門家だけの考えに任せておいていいのだろうか。もっと多くの人々が議論に参加できるよう、情報を可能な限り社会的に共有したい。
 精神鑑定の資料をジャーナリストに提供した医師に対する奈良地裁の有罪判決は、報道機関に情報提供しようとする人を萎縮(いしゅく)させることが明らかだ。多様な情報を豊富に伝えるという報道の使命に深刻な影響を与えるだろう。
 判決を受けた医師は二〇〇六年、奈良県で自宅に放火し、母と弟、妹を焼死させた少年の精神鑑定をした。その際、鑑定資料とした少年らの供述調書などをフリーライターに見せたことが、刑法の秘密漏示罪にあたるとされた。
 ライターは不起訴になり、報道活動への直接介入は避けられた。しかし、医師有罪による情報源への威嚇効果で、報道の自由が損なわれるおそれは大きい。
 関係者の秘密を知る医師は守秘義務を負う。鑑定医の行為には疑問があるかもしれない。
 だが、この医師は、少年が父親の暴力に耐えきれずに放火し殺人を犯した、という捜査当局の見方に精神医学者として納得できず、少年は広汎性発達障害であり、殺人者とするのは間違いだと確信した。そのことを社会に知らせるために調書を見せたという。
 一般論として少年事件の情報の扱いに特別な配慮が必要なことはもちろんだが、医師は「閉鎖的過ぎる」と問題提起したのである。
 社会の複雑化に伴い少年事件の変質も著しい。保護育成と称して専門家だけが情報を握る、従来のやり方には限界があるように見える。少年の立ち直りのためにも、再発防止のためにも、情報をもっと多くの人が共有し、幅広い層から英知を集めたい。
 法は臨機応変、柔軟に運用することで生きてくる。医師の行為についても社会的論議にゆだねてもよかったのではないか。
 残念なのは、ライターが調書などをもとに執筆、発刊した「僕はパパを殺すことに決めた」が医師の信頼を裏切り、興味本位の内容になったことだ。情報源を秘匿する工夫もされていない。
 著者と編集者の資料利用方法、表現の配慮不足はジャーナリズム倫理に反している。
 表現、報道の自由を守るためには自律が求められる。犯罪予防、社会防衛を口実にしたセンセーショナリズムは許許されない。
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〈来栖のつぶやき〉2009/04/16
「僕はパパを殺すことに決めた」とのタイトル、売らんかなの底意が透けて見える。「広汎性発達障害を社会に理解してもらいたい」との学者らしい崎浜被告の願いを草薙氏は利用した。「コピーはだめ」と繰り返す崎浜盛三被告に、「メモ代わり」と調書類の写真約2600枚を撮影した。崎浜被告には出版すら知らされず、発達障害のくだりは申し訳程度しかなかったという。学究の熱い思いを犯罪に落とした行為には、ジャーナリストとしての矜持など些かも感じられない。あるのは商魂のみだ。似非ジャーナリストは「知る権利」などときれいごとを言うが、本件は親告罪である。
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奈良の医師宅放火殺人事件 「調書本」が犯した二重の背信 2009-04-16 | 社会 
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奈良母子3人放火殺人事件・調書漏えい 医業停止1年の処分取り消しを求めた訴訟…医師側の請求棄却2014.6.6 | 社会 
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