アディーレ法律事務所に着手金返還命令~弁護士が受任時に気をつけるべき「依頼者の意思の任意性」 | 向原総合法律事務所/福岡の家電弁護士のブログ

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注目すべき判決が出ました。
債務整理で有名なアディーレ法律事務所は、刑事弁護(私選)もやって
いるようなのですが、その私選刑事弁護を巡って、着手金の返還を求め
た裁判の判決です。

法律事務所に依頼した刑事弁護を中途解約した福岡県の男性が、支払った着手金45万円の返還に事務所側も合意したにもかかわらず返金されないと主張した訴訟の判決で、福岡地裁は16日、事務所側に返還を命じた。

 事務所は債務整理を多く手掛ける「アディーレ法律事務所」(東京)。

 訴訟でアディーレ側は「返金は、新しく選任された別の事務所の弁護士が謝罪する条件で合意した。謝罪がない」と主張したが、永井裕之裁判長は判決で「アディーレの弁護士が送った書面には謝罪の条件はない。返金の合意は成立している」と指摘した。

 判決によると、男性と、逮捕された長男は11月7日、異なる弁護士にそれぞれ刑事弁護を依頼した。男性はアディーレ側への依頼をキャンセルし、支払い済みの計130万円の返還を求めたが、うち着手金分は返還されなかった。
(産経新聞Webページ 2014.12.16 15:38)
 
この事件の特徴は、
・被疑者の家族からアディーレへ、着手金と預かり金合計130万円を入金したものの、
その入金した日に別の弁護人を選任することになり、アディーレの方を解任したこと
・解任にあたり、預かり金は返還されたものの、弁選すら提出されていない段階、つ
まり、上記のお金を受け取って以後、実働していないこと
・着手金の返還をめぐり、アディーレ側担当者と後任の弁護人との間で取り交わされ
た約束(後任の弁護人がアディーレ側に指摘した職務基本規程違反問題について、
その主張を撤回すれば着手金を返す旨の約束)について、アディーレ側からは、この
約束と代表弁護士の意思(後任の弁護人が主張の撤回だけでなく謝罪まですれば
着手金を返す旨の意思)との間に齟齬がある=錯誤無効であるとの反論があったが、
その反論が認められず、和解契約が有効な成立が認定されたこと
にあります。
(雑感)
1 基本的には、着手金は、いったん受け取ったら返せないお金であるという建前ですので、
それはわかります。
しかし、着手後すぐに辞任し、特にその依頼者のために時間を取っていないということであれば、どこまでをというのは問題かもしれませんが、ある程度返金しなければならない、というのが、大半の弁護士の考えだろうと思います。
今回は、この点についての判断は必要がないのでされませんでしたが、そちらの争点についてどうなっていたか興味がありますね。
これについてですが、着手後時間がたっていれば格別、着手金を一切返さないということになると、事実上、一度契約した弁護人を解任することはできません。
つまり、よほどのお金持ちであれば格別、事実上解任の自由がないわけです。
しかし、刑事事件の場合、自分や近親者が身体拘束された直後には、気が動転していて、正常な判断が期待できないと考えています。
しかも、一般の人は、弁護士の費用について詳しいわけではなく(いわゆる情報の非対称性)、弁護士に言われるがままという風になりがちだろうと思います。
アディーレ側は、後任の刑事弁護人との約束(和解契約)を「錯誤無効」と主張していたようですが、むしろ、身体拘束直後の被疑者(及びその家族)による契約こそ、自由意思に基づいていると言い切れるものなのかといえるので(任意性の問題)、受任する弁護士側においても、慎重に受けなくてはならないケースなんじゃないかと感じました。
この事例を他山の石として、自分や近親者が身体拘束されている下での委任契約は、事案の性質上スピードが大事ではあるけれども、本当にその契約で大丈夫なのか、十分に吟味しなければならないのではないでしょうか。

2 とかく、値段が高すぎるのではないか、という批判が出てきますが、この点については、私個人としては、刑事国選が異常なほど安すぎると感じていますし、また、当事者間での契約の問題ですから、真摯に当事者間が同意していれば何の問題もないと思います。

ただ、繰り返させていただいているように、任意性の問題、すなわち、身体拘束下での被疑者や家族の意思表示は、そ の状況からみて、真摯な同意といえるかについて、慎重な吟味を要すると考えます。
本件では、受け手の弁護士側(つまりアディーレ側)で、どれくらい慎重にしていたのか、受任時の具体的な状況が気になるところです。