いまやすっかり芸能界のご意見番として、不動の地位を築いた感のあるマツコ。 しかし、どういう経緯を経てテレビに出るようになったのかを知る人は案外少ないのでは?

マツコがブレイク前の無職時代に書いた著書『アタシがマツコ・デラックス!』(ソニー・マガジンズ)という本をご存知だろうか。
昨今、定着したイメージとはかなり印象が違うメイクやファッションの若々しいマツコが、ワイングラス片手に人の良さそうな笑みを浮かべる表紙に目が釘付けに。
2002年発売なので約15年も前の本のため、現在44歳のマツコもまだ28歳。冠番組を持つなど本格的にブレイクするのは2009年頃からなので、この当時はその巨体ゆえ、旅先で乗車したタクシーの運転手などにホンジャマカの石塚や松村邦洋と間違われるなどしていたようだ。

パン工場やガテン系で働いた過去


本書では、冒頭から「寝糞」「寝ゲロ」「寝小便」をトリプルで体験した衝撃告白に始まり、気になる職業遍歴も。マツコは美容学校を卒業後、美容師、パン工場、ガテン系などの職を転々としていたという(パン工場ではオートメーションで流れてくるパンを、箱詰めする作業を体験)。

ちなみに最も長く続いた職はゲイ雑誌の編集者で、約5年の勤務。セクシャリティの問題がないこともあり、居心地のよい職場だったという。
しかし、2001年に会社を辞めた後は、半年間、世捨て人寸前のひきもりに。さらに重度の過食症のため、食べてすぐに喉に指を突っ込んで吐きまくる「嘔吐ダイエット」を実践していた過去を告白。140キロから約半分の70キロまで激痩せしたらしい(その後、リバウンド)。マツコはその壮絶な体験を振り返り、
「決していまが幸せってわけじゃないんです。やっぱり痩せたいと思うし、外見の美しさは重要だと思う。(中略)でも、こうも思えるようになったの。
ずいぶん図々しい話だけど、デブで女装なんてしちゃってるアタシを、世の中にカッコイイと言わせればいいんだ、って」

と決意を綴っている。その後、2005年あたりからコメンテーター等を経て、じわじわとスターダムをのし上がっていったのは周知の通り。

知られざる若き日の恋愛遍歴も


なお、テレビなどではあまりふれることのない、マツコ若き日の恋愛遍歴が語られているのも興味深い。

「ゲイの世界では、マッチョがヒエラルキーの上なんです。最近はデブ専が比較的多いのでデブが不自由することはないんですけど……」と断りを入れつつも、「世のデブ専のみなさんって、やっぱグラムおいくら?の世界なわけよ。質より量?」と、脂肪重視で内面を見てもらえない切なさを吐露。

さらに、世のOLのようにソニー、博報堂、TBS、日本航空など、恋人が勤める会社や乗っている車にこだわっていた頃もあったという。
中でも旧帝大のアメフト出身、英語力はネイティブ級、都心にマンション所有、愛車はドイツ車というM物産の男とつきあっていたときには、本気で専業主婦(主夫?)になることを考えていたらしい。

「アタシよく解るのよねえ、バカオンナが一流企業に勤めてるオトコと付き合いたがるのって。だって自分に何もないんだもの。本気で打ち込める仕事とか、自慢できる特技とか、センスのいい趣味とか、ひとつでも本物があればいいんだけどね。結局、アタシは自分に自信がなかったのよ。自信持てったって無理よ。
身体はこんなだし、学歴はないし、知性も教養もないし、無職なんだから」

と、シニカルかつ自虐的に振り返っている。そんな夢見る頃(?)を通り過ぎてからは、「アタシは血の一滴や二滴見ないと恋愛した気にならないのね。アタシにとっての恋愛は、ドラマ性を帯びていることが最低条件」という恋愛観にシフト。肩書きにはこだわらず、たとえば天涯孤独の身だったりと、変わった男であればあるほどいいという方向性になったようだ。

ネギ畑の横に住んでいたイケメンの恋人


個人的にツボだったのは、ネギ畑の隣の部屋に住んでいる男とピザのデリバリーを頼んだところ、男が嫌いなタバスコを知らずにかけてしまったことで激怒されたエピソード。

「テメーが好きだからってなあ、みんながみんな好きとは限んねーんだよ! 出てけよ! 今すぐ出てけ!!」と罵声を浴びせられたマツコは、「ネギ畑の横に住んでいるようなヤツに、ここまで言われる筋合いはないわ」と反撃。

そこで、「タバスコ嫌いなお子チャマのわりには、ずいぶん暴力的なことすんじゃないのよ! 猪木ボンバイエ!!」と吠えてしまったのだという(アントニオ猪木がタバスコを一時期輸入していことがあったため)。


なお、マツコは自分自身のセクシャリティについて、「オトコ7、オンナ3くらい」と書いており、さらに「微妙にトランスジェンダーが入っている感じ」と分析している。

なぜマツコなのか?を考えてみた


と、そんなわけで名著『アタシがマツコ・デラックス!』をかいつまんでご紹介した。それにしても、新宿2丁目あたりには、キャラの立った女装のゲイが星の数ほどいるなか、なぜマツコだけがここまで成功したのだろうか?と考えてみた。

まずは、セクシー人間魚雷こと、ポップ&キャッチーなルックスが受けたことは間違いない。体重140キロ、BWHすべてがほぼ130cmという、突出したボディがゆるキャラのようで愛らしいというのもあるのかも。

また、マツコ自身は編集者時代のことを「内容が特殊だったし、編集方法も特殊だったわけで、五年勤めたからって、ちゃんと仕事ができたってことにはなってないの」と謙遜しているが、単なる辛口&毒舌というだけではない、ネタをシビアにジャッジする編集者的な視点が、やはりテレビの仕事にも生かされているのでは?と思われる。

ブレイクで古書価が高騰、現在はレアものに


なお、本書の魅力は文章のおもしろさのみならず、カラー、モノクロ含め、マツコのグラビアもふんだんに掲載されていること。
毛皮にハイヒールで波止場に立ち、こめかみに銃を当てている映画のラストシーンのようなカットや、黒革のセクシーなドレス着用で荒縄で縛られているボンデージ風のカットなど、1枚1枚がドラマティック!! ※毛皮のコートやヴィトンのバッグといった衣装協力には中村うさぎが、イラストは漫画家のくらたま(倉田真由美)と豪華なスタッフが参加している。

ちなみに、現在は絶版になっている本書。ネットで調べてみたところ約15年の熟成期間(?)を経て、なんと定価の1180円を軽く越える4000円以上~お店によっては2万円近くの価格をつけているところもあって驚愕。すっかりプレミア付きのお宝となってしまったようだ。あまり再版されるタイプの本ではないので入手は困難かもしれないが、古本屋や図書館などでぜひ探してみてほしい。
(まめこ)