囲碁AI「AlphaGo」2連勝、人類最強の先に見えたもの:現地レポート

中国・浙江省で2017年5月25日に行われた、囲碁AI「AlphaGo」と人類最強の棋士・柯潔による3番勝負の第2戦は、第1戦に引き続きAlphaGoが勝利を収めた。白星を積み続ける囲碁AIの開発者は何を思うのか。そして、AIの勝利の先には何があるのか。現地からの速報。
囲碁AI「AlphaGo」2連勝、人類最強の先に見えたもの:現地レポート
試合後、お互いのサインを碁盤に書いた中国の棋士、柯潔(右)とDeepMindのデミス・ハサビス(左)。PHOTOGRAPH COURTESY OF GOOGLE

「一昨日AlphaGoが勝った瞬間、まずは問題が発生せずに試合が終わったことに開発者として安心しました。そして柯潔(カ・ケツ)とAlphaGoが全力を尽くせたことを思って、幸せな気持ちになりました」──。

2017年5月25日、中国の囲碁棋士・柯潔とグーグル傘下のDeepMindによる人工知能AI)「AlphaGo」の第2戦の最中に開かれたプレス向けセッションで、開発リーダーのデイヴィッド・シルヴァーは、こう語った。その後、試合開始から3時間ほど経ったタイミングで柯は投了し、AIの勝利、そして人類最強の棋士の敗北が確定した。


「AlphaGo」の中国戦、現地レポート!


5月23日から中国・浙江省で開催されている“フューチャーGOサミット”(Future of Go Summit)で明らかになっているように、今回の対局に“出場”しているAlphaGoは、2016年に韓国でイ・セドルと対戦したヴァーションから進化を遂げたものだ。昨年われわれの目の前に現れたAlphaGoは、AI同士の対戦から学習していく一方で、欧州チャンピオンのファン・フイを始めとする人間の棋士と“スパーリング”を行い、過去の棋譜も学んできた。それに対して現行のAlphaGoは、昨年もしくは現行のAlphaGoを学習相手として使っており、もはや人間をインプットする情報の源、すなわち「教師」として必要としていない。

天才棋士と天才開発者の「褒め合い」

25日に行われた第2戦の直後の記者会見で、柯は「今回の試合の中盤、とても興奮してしまいました。なぜなら、勝てそうな気がしたから」と語った。自らのミスを反省しての発言だった。

果たして、AlphaGoは負けそうと「思って」いたのか。DeepMindのデミス・ハサビスは、このように説明する。「コントロールルームの表示では、50手の段階まで柯潔の手は完璧だったと分析されていました。そして、その後の100手までは新しいAlphaGoと、これまでのどの対戦相手よりも競り合っていました。本当に接戦だったのです」。若干19歳の柯は、その言葉に「お世辞だと思います」と、はにかんでいた。

また同じ会見で、柯は「AlphaGoとの対戦を通して、自分が碁の50%しか理解していないことがわかりました」と語った。これに対してハサビスは、「自分たちは柯潔のような伝説的ともいえる棋士とコラボレーションをすることで、囲碁の100%を超えていきたい」と返した。

このやり取りに、囲碁というゲームの複雑さ、そしてその存在を変えつつあるAlphaGoというAIを生み出したハサビスの感情を読みとることができる。そこには自らの勝利への喜びだけではなく、AlphaGoの勝利が棋士という存在なしにはありえなかったことへの感謝と、囲碁というゲームへの深い尊敬が垣間見えた。

囲碁の美しさを拡張するために

またハサビスによれば、AlphaGoが互いに対戦することで学習を行ったとしても、自動的に強くなっていくわけではない。学習の途中で、開発者が理解できない予想や結果が出た場合などには、囲碁の専門的な知識が必要になる。そんなときは、開発チームにいる棋士、ファン・フイに何が起きているのかを分析してもらうという。世界一の棋士を超えたとしても、AlphaGoは人間である棋士の力を必要としているのだ。

プレスセッションは第2局の真っ最中に行われたため、AlphaGoの開発リーダー、デイヴィッド・シルヴァー(左)は終了後急ぎ足でコントロールセンターに向かった。PHOTOGRAPH COURTESY OF GOOGLE

前述の第2戦中に行われたプレスセッションで、第1戦でAlphaGoが柯に勝利したときの感情をハサビスはこう語った。「さまざまな気持ちが入り混じります。AlphaGoが勝ったことはうれしいし、目の前で起こった素晴らしい試合の美しさに感動しました。しかし、ぼくは柯潔がどれほど囲碁に身を捧げてきたか理解できる。だから、彼にとても感謝しています」

ハサビスは、チェスのプロプレイヤーとして活躍した過去をもつ。人間がつくったゲームの素晴らしさを理解し、「もしアジアに生まれていたら、ぽくは棋士になっていたかもしれない」という彼は、単に棋士を倒したくてAlphaGoをつくったわけではない。だからこそ、AlphaGoは世界一の棋士に勝利したとしても、棋士と手を取り合うことで、囲碁の可能性を探求し続けることができる。

5月26日のフューチャーGOサミットでは、5人の棋士がAlphaGoと戦う「チーム碁」と、AlphaGoが棋士とタッグを組み向かい合う「ペア碁」が行われる。開発リーダーのシルヴァーによれば、これらは人間がAIがコラボレーションする可能性を追求し、新しい囲碁の美しさを発見するために行われるという。


AIと人類、世紀の決戦のドキュメンタリー──「黒37手と白78手」

2016年3月8〜15日にかけて争われた、グーグルの「AlphaGo」と囲碁韓国チャンピオン、イ・セドルの戦い。その対局で一体何が起こり、これから人類はどこに向かうのか。『WIRED』US版が密着取材を試みた。


TEXT BY WIRED.jp_Y