書いたのは機械。テキストの自動生成による初の学術文献がめちゃまとまってる

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  • author Andrew Liszewski - Gizmodo US
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  • Kaori Myatt
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書いたのは機械。テキストの自動生成による初の学術文献がめちゃまとまってる
Screenshot: Springer Nature Publishing

さすがスプリンガー。

目のつけどころが違う。論文を書いたことがある人なら、わかるはず。論文を探すのは大変。引用するのも大変です。昭和の人たちは図書館に行きましたよね。平成ではインターネットが大活躍しましたが、令和から先はAIが研究者の強い味方になってくれるかもしれません。機械が生成するテキストを単に使うだけでなく、AIを効果的に使ったすぐれた例ではないでしょうか。もっとたくさんの分野でこのような出版物が増えるとうれしいですね。


機械学習でテキストを編纂

実はAmazonには、すでに機械によりテキストが自動生成された電子書籍がうようよしているって知ってました?

おこづかい稼ぎにちょっと電子出版でもしてみるか、ってな輩がそんな自動生成テキストの本をばんばん出しており、そのほとんどは読むに耐えないものであります。しかし、機械生成本も、どうやらそんなたちの悪い本ばかりでもないようです。

世界に名だたる学術文献の出版大手Springer Nature(シュプリンガー・ネイチャー)が、機械学習のアルゴリズムに基づいてテキストを編纂した初の書籍を出版しました。といっても一晩でがんがん読み進めちゃうようなスリルにあふれた読み物ではありませんが。

これは、ドイツ、フランクフルトにあるヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ大学の応用計算言語学ラボ、通称ACoLiのAI研究者たちが開発したアルゴリズムです。 『ハリポタ』や ベストセラー小説には遠くおよびませんし、ベストセラーを狙った読み物でもありません。その題名もズバリ『Lithium-Ion Batteries: A Machine-Generated Summary of Current Research (リチウムイオンバッテリー:最新研究の機械生成テキスト)』(ここからダウンロードできます)。突飛なキャラクターたちが大活躍することもありませんし、SNSに載せたくなるような粋なセリフや心に残る言葉も一切ありません。ましてや壮大な物語なんて期待しないでくださいね。映画化なんてもってのほか。この本は、リチウムイオン電池について行われた過去の研究論文を「蒸留」したようなものなんです

アルゴリズムがあなたに代わって論文を見つけてくれる

過去3年間に出版されたリチウムイオン電池についての研究論文は、ざっと5万3000件以上。リチウムイオン電池は携帯電話に腕時計に、果ては電気自動車にも使われていますよね。わたしたちにとっては身近な存在だし、実に人気の研究分野なんです。もしも新しい画期的な研究がめでたく実ったら、わたしたちの大好きなガジェットが革命的に進歩する可能性がありますし、その研究を基礎に億万長者になれる可能性だって大いにあります。人気があるのも不思議はありません。しかし出現する研究論文は無数にあります。それらすべてを網羅するのは至難のワザ。そこで、Springer Natureの機械生成による電子出版は、データを求める人たちにとっては、実に画期的といえるのです。

ぎゅっと凝縮された論文ガイド

求める題材に基づき、アルゴリズムがあなたに代わって機械学習を駆使して、まずはすでに出版されている論文にあたってくれます。求める分野に特に関係のあるものだけを機械が厳選。その上でSpringer Natureのオンラインデータベース上にある査読済みの論文を解析、濃縮、整理して、電池にまつわるさまざまな研究分野にわけてチャプターを凝集・生成してくれます。それぞれのチャプターにある論文の要約も自動抽出。引用文には元の論文へのハイパーリングがついているので、もっと細かくその内容が見たいなと思った人は、リンクをクリックして元の論文にあたることができるというわけ。

この凝縮された論文ガイドはざっと180ページあります。電池を日夜研究する研究者にとっては、まさにリーダーズダイジェストといった便利なもの

アルゴリズムは電池の研究のみに限定されるわけではなく、科学系の論文であれば、ほかの分野にも応用が可能とのこと。またリクエストされたトピックを元にしてこのような本を作成することも今後は可能になっていくとのこと...。

現在のところ、元となる論文については人間のモデレータが基本的な品質管理というレベルで承認をしており、完全に自律的ではないといいますが、出版業界がAIに支配されたら、それこそわたしのようなサイエンスライターは商売あがったりですので、人間様の手が必要ということでひとまず安心ですね。ほっ。