luckdragon2009 - 日々のスケッチブック(Archives)

luckdragon2009 - 日々のスケッチブック [過去記事]

電力の巨人が擬人化され、憎悪が生まれ、誤認されるのは何故か。

最初に紹介しておく。
この書籍。

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この書籍を知っている人なら、後段はもう読まなくても分かるかも。
この書籍で繰り返し言及されるのだが、人間の認知行動にはどうしても誤認が生まれる機構がある。
医学的な治験で、なぜ二重盲検が行われるか。
...それは医師にしても、患者にしても、この機構から逃れられないから。自分の思考に、観察に、意識すると認知バイアスが紛れ込むから、真の薬なのか、偽薬なのかを伏せて、治験をするのである。
プラセボ以上の薬効が上がらないと、薬としては認められない。治療として認める内容とはならない。


さて、電力の巨人に対して、憎悪の感情が投げかけられるようになって久しい。
勿論、きっかけは福島原発原子力発電所事故に起因する。あの事故自体は大きな事故であるし、東日本大震災が非常に大きな地震であったのを「考察しなければ」、大きく責められて良い事故だったように思う。
メディアにはたくさんの記事が載り、さまざまな論評が記載されたが、基本的な記事の後ろに流れる感情は、基本的に「怒り」だった。
...まあ、ある意味仕方がないとも思う。大変な事故ではあるし。
しかし、時間が経ってからも、その感情は長く保持され続け、時に非常に高い温度で表現されているようだ。
ネットに、知識や感情を固定する機構が備わっていることは『固定感情、知識を保存するネット。克服するための方法は? - luckdragon2009 - 日々のスケッチブック』で触れた。私は、さらにこの機構に、「自分で完全にコントロールできない巨大システムへの恐れの感情」も加わっていると思う。
実際、電力供給システムは、発電所、電力線、燃料確保、技術研究、安全管理、資金調達を項目に持つ、巨大システムである。はっきり言って、電力会社自身も、国交や震災、事故などの影響を考えれば、完全に総ての動向を掌握し続けるのは無理だと思う。
つまり、実は総ての人間にとって、電力供給網は「自己のコントロール下に置けない」システムです。
人は、自分がコントロールできない存在には恐れを抱きます。地球の気象、海洋の巨大循環、台風、火山活動。もちろん、地震にも。
その恐れが、人間がそれに関与しているが故に、畏怖よりも憎悪*1に転じる感情を発生させてしまっているのではないか、と思う。
この感情は時に、大きな誤認を発生させる。冒頭の書籍に戻るが、人間は「本来法則が存在しない所に法則を見てしまう生き物」です。
...よく言われる内容としては、「満月の夜に犯罪が起こる」とか、偶然を「シンクロニティ」や「予知夢」に誤認する、とか。
計画停電に、電力会社の陰謀を言及するのも、これと同じ機構です。本来、そう意図しているわけではないのだが、人間の認知機構と、先に説明した憎悪感情が合わさって、さも電力会社が意図して停電を起こしているように見えるのだ。
勿論、九州電力のやらせメール事件や、事故情報隠し、は明確に存在するので、電力会社がまったくの無罪だというつもりはないし、あれほどの巨大企業になれば、組織間の綱引きが企業の意思決定を官僚主義的にしているのは間違いないとは思う。
しかし、一部の人々がさらに強調するほどには、電力会社自身も陰謀をめぐらせている訳ではないと思う。


特に、現状の現場の技術者においては、給与が減る中で、賞賛に値する働きをしている例も多いと思う。
自分の憎悪の感情をずっと持ち続け、事あるごとに電力会社をたたくのは勝手だが、その感情に囚われすぎると、そういった真摯に行動している従業員や、その良好な施設稼動環境も道連れに、電力会社本体を叩き潰す、という決定書にサインをしてしまうような気がする。
先に言ったが、電力供給網は「自己のコントロール下に置けない」システム。それをさらにコントロール不能にしてしまった場合に、不利益を被るのは、電力会社だけではなく、利用者も同様。
...それをもう少し考えて、自分の意志行動を決めた方が良いと思います。

関連リンク
固定感情、知識を保存するネット。克服するための方法は? - luckdragon2009 - 日々のスケッチブック

*1:人間が稼動に関わっているから、一見、それを思うように操っているように見えるが、実際、電力会社のトップでさえ、自ら確認できる範囲に限定しての意志反映しかしていない。つまり、この件に関しては、真の支配者などはいない。存在できない。