福島第一原発事故の避難区域外にある福島県23市町村の住民への賠償支払いで、東京電力と経済産業省が住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)を使うことを検討している。手続きを簡単にするねらいだ。ただ、住基ネットは目的外使用が禁じられており、自治体にも慎重な意見がある。
政府の原子力損害賠償紛争審査会は6日、23市町村の住民は自主避難した人も残った人もすべて賠償対象にすることにした。対象者は約150万人にのぼる。
東電は避難区域内の約15万人への賠償では、住民から電話で住所を伝えてもらって請求書を送り、本人確認のために住民票の写しをつけて送り返してもらった。だが、約150万人分の電話受け付けには大規模なコールセンターが必要になる。市町村に住民票の写しを発行してもらうのは膨大な事務作業になり、窓口が混乱するおそれもある。
住基ネットには住民の氏名、住所、生年月日、性別が登録されており、対象地域に誰が住んでいるかわかる。東電は市町村や福島県に対象住民の氏名や住所を提供してもらって請求書を送り、口座などを書いて送り返してもらう。本人確認は住基ネットで済んでいるので住民票の写しはいらない。支払いがスムーズになるとして、経産省は福島県に対し、県か市町村が住基ネットで情報提供してくれるよう打診した。
しかし、住基ネットは個人情報を守るため使用目的が決められている。目的外使用は県が条例をつくったり、市町村が個人情報保護条例を改正したりする必要がある。福島県は「個人情報管理の問題もあり、賠償のくわしい進め方を示してもらわないと判断できない」(原子力賠償支援課)と保留している。市町村にも「東日本大震災からの復興業務で忙しく、負担が増える」と慎重な声がある。(竹中和正、小暮哲夫)
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〈住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)〉 全国の各市町村が管理する住民基本台帳のデータを、オンラインで結んだシステム。国民1人ずつに11けたの住民票コードをつけて、氏名、生年月日、性別、過去〜現在の住所の四つの情報が入っている。2002年に動き始めた。国や自治体が、年金の支給やパスポートの申請、国家資格試験の願書提出などで本人確認をするために使う。個人情報を守るため、目的以外に使うことは禁じられている。