北海道美術ネット別館

アート、写真、書など展覧会の情報や紹介、批評、日記etc。毎日更新しています

■茶廊法邑芸術文化振興会企画 6色イリュミナシオン (2014年6月11~19日、札幌) ※追記あり

2014年06月19日 01時11分11秒 | 展覧会の紹介-絵画、版画、イラスト
  
 一部の媒体には、出品者のひとりである川口巧海さんの名を冠して「川口巧海グループ展」という名称で載っていた。彼がキュレーティングを行ったらしい。どういうきっかけで、この展覧会を開くことになったのか?

「法邑さんから、若い世代の作品を見たいので、グループ展を企画してほしいという要望があったんです」

 茶廊法邑の法邑美智子さんは
「いやあ、あたしはただのおばさんだから」
みたいに謙遜なさっているが、なかなかどうして目の付け所が鋭い人だと思う。
 筆者は、ついこないだも
「札幌の美術界は、30代半ばから40代初めぐらいは元気な人がいっぱいいるけど、もっと若い20代の姿があまり見えないよね」
という話をしていたばかり。この傾向は、写真でも同様だ。

 20代では、道都大中島ゼミの卒業生の活動が目立つが、彼らを入れると、いつも法邑などで行われている展覧会とあまり変わらないものになってしまう。そこで川口さんは、中島ゼミ以外で「これは」と思う人に声をかけたという。自分以外すべて女性なのは、偶然の結果とのこと。

 だから、この展覧会は、1987~93年前後生まれの作家が、世代として初めて札幌のアートシーンに姿を現した、ある意味で歴史的な(ちょっと大げさな言い方になってしまうけど)、記念碑的な展覧会といえると思う。

 ただ、結論を先回りして述べてしまうと、もともと視覚的要素優位の北海道美術のなかでも、この世代の視覚優先は際立っていると思う。言いかえれば、コンセプチュアルアート的、プロジェクト的な作品が非常に少ない。むちゃくちゃ雑な区分をすれば、現代美術が少なく、団体公募展系が多い。
 札幌国際芸術祭への関心の低さがいわれているが、芸術祭でプレ的に走り始めているのが、プロジェクト的な企画(とくいの銀行など)であるので、札幌の若い人は、どうやって接すればいいのか、なれておらず、わからないのかもしれない。

 もちろん、筆者は、どちらが良くて、どちらがダメというつもりは、全くないので、誤解なきように。

 実も蓋もないことをいえば、村岸宏昭森本めぐみの不在(あるいは、こちらの記事がおすすめ)が大きいよな、と思う。この二人は、まさに「現代美術」の発想法を持つ作家だったから。


 さて、そろそろおしゃべりはやめて、展覧会そのものの紹介に移ろう。

 冒頭は川口さんの銅版画。
 川口さんの作品は、団体公募展的というよりも、さらに擬古典的というべき古びた雰囲気と落ち着きをたたえている。
 深い黒は、夜や、人間精神といったものの深さに通じているのだと思う。

「貴婦人の黒い香り」「夜伽」「夢想の翼は沈黙の夜に」「彼女等の永遠の問い」「永劫の測量術」「黎明の儀式」「悲しみは波際で」「去年会話は螺旋」「永遠症の観測者」




 高橋あおばさん。
 クレヨンを使った六花亭福住店の作品とはやや様子が異なる。ひきだしの多い人だ。
「melt」「大きな夜」「iwai」「flower II」




 河合春香さんの絵は、色数が多い。
 強いタッチの抽象画だが、この「夜をおよぐ魚」は、人が横たわっているようにも見える。
 「land mark」「あの日の風」も出品。




 佐藤レイラさん。
 いわゆる日本画で、JRタワーのアートプラネッツグランプリ展でも入賞していた。
 画像の作品「leaf of silver」は、シルクスクリーンで刷った紙に墨やインクで描き加えている。霧の町のような、ふしぎな明るさがある。
 「love letter series -Blue-」「love letter series -Pink-」「from the day」「play land」「love letter series -Oogi-」




 松浦シオリさん。
 誰が見ても「うまい」としか言いようのないイラストレーター。しかも、コンピュータグラフィックスというから驚きだ。
 「上村松園が好きなんです」と松浦さん。どこか大正ロマン風というか、ちょっと昔ふうの日本画に似たテイストは、そのあたりに由来しているのかも。
 題の記述がない人物画5点と「朝霧」。




 土岐美紗貴さん「kasane」(右)と「植物標本」12点。
 ますます植物図鑑のような、淡く薄い色調の表現になっていく土岐さんの作品。銅版画といっても、川口さんの作とはかなり雰囲気が異なる。
 ほかに「USURA」。

 追記。
 題名のイリュミナシオンは、フランスの詩人アルチュール・ランボーの詩集の題からとられている。この詩は、新潮文庫や、岩波文庫「地獄の季節」、その他さまざまな訳書で手軽に読むことができる。
 アートをやってる人でランボーを知らなければ、人生損してると思うので、手にとってみてください。
 川口さんいわく
「光とか天啓という意味ですが20代の輝きというイメージですね。」
とのことだ。
 ちなみに、英語だと、illumination(イルミネーション)になる。


2014年6月11日(水)~19日(木)午前10時~午後6時(最終日~午後5時)、火曜休み
茶廊法邑(札幌市東区本町1の1)


 ※行き方は、一番下に書いてあります


□川口さんのツイッター https://twitter.com/Takumi_Kawa48

川口巧海個展「夜の詩学」 (2013)
LOOP EXHIBITION (2010)
版画三人展 (2009年8月)
道都大学中島ゼミ 版's SEVEN (2008年)
第6回学生STEP(2008年)=以上、川口さんが出品

第4回法邑ギャラリー大賞展 (2008)=川口さん、高橋さん、河合さんが出品

□高橋あおばさんのサイト http://profile.aoba-takahashi.net/

□河合春香さんのツイッター https://twitter.com/jenny_haruka

□佐藤レイラさんのFacebook https://www.facebook.com/layla.sato.5

□松浦シオリさんのツイッター https://twitter.com/bucchibi_

□土岐美紗貴さんのFacebook https://www.facebook.com/misaki.toki


・地下鉄東豊線「環状通東」駅から約790メートル、徒歩9分

・札幌駅北口か環状通東駅から、中央バス「東64 伏古北口線」に乗り、「本町1条2丁目」降車。約180メートル、徒歩3分(1時間に1本)
・中央バス札幌ターミナルから中央バス「26 丘珠空港線」に乗り、「北13条東15丁目」降車。約460メートル、徒歩6分。なおこの路線は、環状通東、元町、新道東、栄町の東豊線各駅とも連絡
・地下鉄南北線「北18条駅」から中央バス「東62 本町線」に乗り「本町2条1丁目」から約450メートル、徒歩6分


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。