貧しい国のコメ農民の関税保護をー国際開発NGOが新報告

農業情報研究所(WAPIC)

05.4.12

 世界の貧困問題と闘う国際NGO・オックスファム・イナタナショナルが11日、貧しい国の生業的農家が生計を依存するコメなどをWTOの関税削減の例外とすべきなどとする新たな報告書を発表した(Kicking Down the Door:http://www.oxfam.org/eng/pdfs/bp72_rice.pdf)。

 報告書によると、豊かな国がWTOを利用、その過剰農産物を安値で輸出するために貧しい国に市場開放・関税削減を迫っている。輸入関税削減を強要される貧しい国はますます脆弱になり、農業に依存する地域社会を破壊され、食糧安全保障が脅威に曝され、多数の家族が貧困の淵に追い込まれるという。

 ドーハ・ラウンドを復活させた昨年夏のWTO枠組み協定で、貧しい国は適切な食糧国内自給を確保する「食糧安全保障」・「生計安全保障」・「農村開発の必要」を基準とする関税削減例外「特別品目」を許容する約束を勝ち取った。だが、米国は、これら品目は非常に限られた品目に限るべきだ、消費者が貿易保護の犠牲になるなどと、この約束をできるかぎり値切ろうとしている。米国の主張の根底には、食糧安全保障は国内生産増強よりも外国の低コストの生産物への市場開放によって有効に確保できるという年来の哲学がある。

 しかし、オックスファムは、消費者の安いコメへのアクセスは重要だが、貧しい国が国内生産と輸入の適正なバランスを決定することがもっと重要と言い、貧しい国の稲作を破壊する米国のコメ政策に批判の鉾先を向ける。

 報告によれば、米国は稲作支援のために毎年13億ドル(約1400億円)を支出、この補助金が生産コストを34%下回る価格(00-03年平均、参照:報告書Annex1)での470万トンのコメの世界市場への安値輸出を可能にしている。そのために、ハイチ、ガーナ、ホンジュラスなどの貧しい国が損害を受けている。従って、報告は、途上国が自らの弱体な家族農業部門の発展を可能にする政策の利用を許されねばならないと主張する。 

 オックスファム・インタナショナルの”貿易を公正に”キャンペーンを率いるフィル・ブルーマーは、「米国のコメは大量の補助金なしでは競争力をもたない。貧しい国が米国との競争を強制されるのはスキャンダラスなことだ。もっと悪いことに、彼らは安値輸出から自らを護る機会を否定される」と言う。報告は、WTOで豊かな国が勝てば、インド、中国、ニカラグア、エジプトなど13の途上国がコメ関税削減を強要される一方、米国コメ産業が貧しい国の市場へのアクセスから利益を得ることになるという。

 世界最大の精米販売農協である米国・アーカンソーのライスランド・フーズ社の利益は、国際通貨基金(IMF)の圧力で95年にコメ関税を35%から3%に削減することを強要されたハイチなどへの輸出の50%の増加のお陰で、02年から03年に1億2300万ドル増加した。その結果、ハイチのコメ輸入は9年間で1.5倍増加、ハイチで食べられるコメの4分の3が米国から来ることになった。国内農民の生計が大打撃を受け、稲作地域は最高レベルの栄養不良と貧困に悩まされることになったという(米国の補助金と攻撃的な販売戦略には、同様な事態にあるガーナなどの小国だけでなく、目下米国との自由貿易協定交渉を行っているタイでさえ対抗できないかもしれない)。

 報告は、さらに、関税削減で脅威に曝されるのはコメ部門だけではなく、18ヵ国の家禽部門、14ヵ国の粉乳部門、13ヵ国の砂糖部門、13ヵ国の大豆部門、7ヵ国のトウモロコシ部門、6ヵ国の小麦部門と推定する。

 それだけではない。豊かな国は、WTOだけでなく、世界銀行、IMFや自由貿易協定(FTA)を通じても途上国の市場開放を迫っている。18年間で農業援助を3分の2も減らしたことも事態を一層悪化させている。

 報告は、

 ・新たなWTO協定は途上国がその農民の生計を傷つける恐れのある生産物の輸入を規制することを許容するものでなければならない、

 ・豊かな国は途上国の市場開放を強要する二国間貿易協定の交渉を停止しなければならない、

 ・IMFと世界銀行は貧しい国の政府に関税一律削減を強要するのをやめねばならない、

 ・途上国政府はその農業政策が貧困削減を促進するように保証すべきである(貧困削減を実現するための単純な農業・貿易政策はない。政府は国の条件に最適な介入を行うための十分な柔軟性を持つべきである)

と勧告する。

 オックスファムの立場は、途上国は農村開発や食糧安全保障のために不可欠という理由でコメなどの「特別品目」の関税削減例外品目を認め、また輸入価格・量が急激に変動する場合に一時的に関税を引き上げる「特別セーフガード」を認めるべきだとするG33グループ(インドネシア、フィリピン、パキスタン、ケニアなどを含む)の昨年12月の提案を支持するものだ。この立場は、米国やEUの強硬な反対に遭遇している。インドネシアやフィリピンも含むケアンズ・グループの盟主として両者の橋渡しに苦慮するオーストラリアも、食糧安全保障の最善の方法は貿易自由化だという米国と同様な基本的立場を変えることはないだろう。ドーハラウンドの行方を決める年末の香港閣僚会合は、これら大国と貧困国グループが激突する場となる可能性が高い。この問題をどう解決するのか、他の問題に気をとられ、それがラウンドの行方を占う大きなカギの一つとなるだろうことを忘れてはならない。