そもそも株式会社とは、岩田規久男

オリンパス問題などで、最近また、企業統治とはどうあるべきか、という議論が盛んに行われるようになってきた。そこで、今日は株式会社や企業統治についてのわかりやすい本を一冊紹介しよう。

この本が書かれたのは、ライブドア・ショックや村上ファンド事件で、「会社は誰のものか?」という議論がにぎやかだった時だ。大学教授らしく、たんたんと株式会社の歴史や、企業統治の考え方に関しての日本やアメリカ、ヨーロッパ諸国でのちがいなどをわかりやすく解説している。

ファイナンス理論というのはそのほとんどがアメリカで作られたもので、そういったファイナンスの教科書に従えば、会社とは株主のものである。英米などではこれは極めて当たり前の考え方で、株主の利益を最大化することこそが経営者の仕事となる。株主というのは、会社の取り引き先、従業員、債権者(負債の利子)、政府(税金)、に利益を分配した後に、最後に利益を得る立場であり、実は一番弱い。だからこそ、一番弱い株主の利益を考えれば、ステークホルダー全ての利益にもなる、というのが標準的なコーポレート・ガバナンスの考え方である。

ところが日本ではこのような考え方はまったく根付いていない。日本では会社は株主のものではなく、コア正社員のものだからである。日本の大企業では、将来の幹部候補であるコア正社員は、終身雇用で守られ、また同時に退職金など最後まで勤めあげないと損失が大きい報酬制度により会社に縛り付けられる。そして、コア正社員は、会社特殊的な技術や知識を身につけていき、それらは転職先ではほとんど役に立たない。よって、退職前に会社の外に放り出されることは、コア正社員にとって極めて大きな損失となる。本書でもくわしく解説されているように、このような会社特殊的なスキルしか身につかず、会社が倒産することによる損失が極めて大きいコア正社員こそが、会社の存続を誰よりも真剣に考えており、それゆえに企業統治の主権者になるべきであるという学説もある。

今でこそ、このような日本型企業統治は、日本経済の停滞の元凶のようにいわれているが、1980年代の日本経済が非常に好調だった頃は、マイケル・ポーターやピーター・ドラッガーのようなアメリカの著名な経営学者が、日本のような終身雇用にもとづくコア正社員による企業統治こそが、会社の「長期的」利益を常に考えるので、理想的なものだと賞賛していたのだ。

このように企業統治のあり方というのは、ファッションのように、時代によって変化していくのかもしれない。

この本は、さまざまな企業統治の考え方をていねいに解説し、それぞれのメリット・デメリットを議論している。読んで損はない一冊であろう。