学校給食と牛乳

児童・生徒に対する牛乳飲用の強要

1)スポック博士の育児書

学校給食の問題に入る前に、幼児の牛乳飲用に触れておこう。下図(図3)をご覧になると、1〜6歳の幼児の乳・乳製品の摂取量は7〜14歳の前思春期の児童・生徒に次いで多い。これは、文部科学省管轄の幼稚園・小学校・中学校のように強制ではないが、保育所で牛乳が出されるとともに、牛乳に関して誤った教育を受けた親が子どもが丈夫に育つようにとわが子に牛乳を飲ませるからである。「子どもを健康に育てるためには何をおいても牛乳を!」という刷り込みの大本は母子健康手帳にある。母子健康手帳は1966年の母子保健法の施行に伴って67年から交付された。

2005年にK市で交付された健康手帳には「離乳の進め方の目安」として、離乳完了期(12〜15ヵ月)の赤ちゃんには離乳食に加えて「牛乳や粉ミルクを300〜400ml」を飲ませるようにと記載されている。さらに「幼児期の食生活の心がけ」に「与えよう、牛乳・乳製品を十分に」なる文言がある。また、母子健康手帳副読本は「妊娠中の食事」として「カルシウムによって胎児の骨や歯がつくられます。牛乳、乳製品、大豆製品、海藻類、小魚、緑黄色野菜などに含まれています。とくに牛乳は含まれるカルシウムが多く、そのほとんどが吸収されやすい食品ですので、ぜひ、毎日とってください」と妊婦に牛乳摂取を勧めている。さらに、この副読本は、妊娠中に「ふだんより多めにとりたい食品」として「牛乳や乳製品(低脂肪牛乳や無糖ヨーグルトがおすすめ)」をあげ、「合わせて1日400〜500グラムが目安です」と妊婦に大量の牛乳・ヨーグルトを飲ませようとしている。

厚生労働省が、2006年3月に「牛乳・乳製品などの多様な食品を組み合わせて、カルシウムを十分に」などという「妊産婦の食生活指針」を発表したものだから、未だに妊産婦牛乳支給事業(母子健康手帳をもっている妊産婦に牛乳を無償で供給する)を継続している市町村がある。つまり、厚労省は生涯にわたって日本人に牛乳を飲ませようと懸命なのである。

日本の育児に大きな影響を与えた書物にアメリカの小児科医ベンジャミン・スポック(1903〜1998)が著した『スポック博士の育児書』(原題『Baby and Child Care』)がある。この原著の初版は1946年で、42カ国語に翻訳され世界中で5000万冊も販売されたといわれるほどに圧倒的な影響力を発揮した育児書であった。以下のことは『乳がんと牛乳-がん細胞はなぜ消えたか』(径書房2008年10月)の訳註で述べたことであるが、ここでも触れておきたい。

アメリカでは1946年の初版につづいて、1992年に第6版、1998年に第7版、2004年に第8版が出版されている。日本でも、赤ちゃんが生まれると誕生祝いに日本語版を贈ることが流行ったというから、1970(昭和45)〜1980(昭和55)年に母親になった女性(現在50〜70歳)のなかにはこの育児書を読んで子どもを育て、一層強固な牛乳信者になった人もいることだろう。実際、日本の母子健康手帳および副読本はこの育児書を参考にしてつくられた。

日本では1966(昭和41)年に、高津忠夫・監修の和訳・初版が原著・第3版(1957年)に拠って「暮しの手帖社」から出版された。その後、1992年にアメリカで出版された英文の第6版が、故高津忠夫と奥山和男の監修で『最新版・スポック博士の育児書』として翻訳・出版され、2006(平成18)年現在、13刷を重ねている。

日本語版での牛乳に関する文章は初版でも最新版でもほとんど変わっていない。日本語の最新版(原著第6版)には次のように書かれている。

牛乳には、人間の体に要る、ほとんど全部の成分が、含まれています。つまり、蛋白質、脂肪、糖分、ミネラル、それに、たいていのビタミンが入っています。

もっとも、よくバランスのとれた食事をしている子なら、牛乳をのまなくても、他の食べものから、こういった大切な栄養素をとることができますが、カルシウムだけは例外です。

牛乳は、カルシウムをたっぷり含んでいる唯一のたべものなのです。だから、どんな形にせよ、よちよち歩きの子には、一日に450cc〜560cc、もっと大きい子には、700cc­〜950ccの牛乳を与えなければいけないのです。

といっても、こどもは、日によって、また週によってほんの少ししかのまなかったり、とてもよくのんだり、ムラの多いものだということを忘れてはいけません。いつまでも牛乳をのませようとおもったら、あまりほしがらないときは、しばらく少しにしてやればいいし、まったくのみたがらないときはそっとしておくことです。けっして無理じいをしてはいけません。ただし、二、三週間たっても、まだ700ccにもどらないときは、牛乳を使う料理を考えるなりして、たべさせる工夫をしてください。

このようにスポック博士は、幼児に多量の牛乳を飲ませるよう母親に説いていた。ところが博士は、1998年の第7版で、牛乳に対する考えをそれまでと180度変えてしまった。スポック博士は、「自然界には、離乳期を過ぎてミルクを飲む動物はいない。人間も同じで、離乳期を過ぎたらミルクを飲まないことが正常である・・・。必要なタンパク質を植物から摂ったほうが、子どものカルシウム・バランスは良くなる」と述べ、1歳未満の子どもは母乳で育てるのが自然で、離乳期を過ぎたら植物性の食品を食べさせよと強調するようになったのである(日本語の最新版は第6版に拠っているからこのスポック博士の考えを伝えていない)。英語版はさらに改訂されて2004年に第8版が発行されているから、アメリカで最新版と言えば第8版のことである。第6版を翻訳した日本語の最新版は原著最新版とは似て非なるものである。第8版は次のような、乳・乳製品に対するスポック博士の新しい見方を伝えている。

アメリカ人の心臓発作に到る道程は子どものころから始まっている。すでに3歳で、多くのアメリカの子どもの動脈壁に脂肪が付き始める。12歳の子どもの70%に動脈硬化の初期変化がみられ、21歳になるとほぼ全員に動脈硬化が始まっている。肥満がアメリカ社会全体を覆うようになった。アメリカは社会全体で食生活を変えなければならない。最悪の食品は乳・乳製品である。

長い間、お医者さんは少年少女にたっぷりカルシウムを摂らないと、年をとってから骨がもろくなってしまうと言い続けてきた。事実、米国科学アカデミーは1〜3歳の子どもは一日500mg、4〜8歳は800mg、9〜18歳は1300mgのカルシウムが必要だと述べている。こんなにたくさんのカルシウムを摂る一番手っ取り早い方法は牛乳をたっぷり飲むことである。アメリカは国をあげて『もっと乳・乳製品を!』という宣伝キャンペーンを繰りひろげてきた。しかし、最近、こんなに大量のカルシウムが子どもに本当に必要なのかと疑問を投げかける専門家が現れるようになった。例えば、12〜20歳の女性を対象にした研究によると、一日500mg(勧告量の40%)以上のカルシウムを摂っても、骨密度が増えることはないという。骨を丈夫にするのは、カルシウムではなくて運動(身体活動)なのだ! よく運動する少女ほど骨が丈夫(骨密度が高い)であった。

個人的なことになるが、私(スポック博士)は、88歳になった1991年から乳・乳製品を完全に絶ち、肉は脂身のない部分を少ししか食べないという食生活に切り替えた。この食事にしてから2週間で、長年の抗生物質の治療で効果のなかった慢性気管支炎が消えた。私の中高年の友人で、食事から乳製品や肉を除くことによって持病の心臓病がよくなった人が何人もいる。この種の食事が効果を発揮するためには、精製しない穀物、たくさんの野菜・果物を食べて、よく身体を動かすことが必要である。

私はもはや、2歳を過ぎた人間に乳・乳製品を勧めることはしない。たしかに、乳・乳製品が望ましい食物だと考えていた時期もあった。しかし、最近の多くの研究や臨床経験に基づいて、医師も「乳・乳製品はよいものだ」とする考えを見直さざるを得なくなったのである。

アメリカでもイギリスでもそして日本でも、牛乳の消費拡大に最も効果が大きいのは学校で生徒に牛乳を飲ませることである。「子どもの健やかな成長のために」というスローガンは受け入れられやすいし、子どもの牛乳飲用習慣(味覚と嗅覚)は大人になっても継続するからだ。


2)食育基本法が制定されても、文部科学省は「牛乳強要」を続けている

文部科学省は、食育基本法(2005年)に沿って、「栄養」から「食育」に重点を移して学校給食法を改訂した(2009年4月施行)。新・学校給食法は7つの「学校給食の目標」を掲げている(図4)。目標の6番目に「我が国や各地域の優れた伝統的な食生活についての理解を深めること」 とある。昼食の「ごはんとおかず」に「牛乳」をかならず添える食事が「伝統的な食生活についての理解を深めること」つながるのか。「ごはん+おかず+汁もの」に「牛乳」はまことに奇妙な組み合わせである。

「食育」を重視する「新しい学校給食法」においても相変わらず、文部科学省は牛乳強要を続けている。今、日本の学校給食で年間消費される牛乳は20億本(1本200ml)に達し、学校給食で牛乳生産量のほぼ1割を消費している。保護者が「わが子に牛乳を飲ませないでほしい」と要望すると、校長は「牛乳を飲まないとカルシウムが不足する。<○○の理由で牛乳を飲まないように・・・>という医師の診断書を提出せよ」というそうだ。親が飲ませたくないというのに、学校長にこんなことを云う権限があるのか。校長は人事権を握っている教育委員会が怖いのだ。

保護者が子どもの牛乳飲用を希望し、自分でも飲みたいという児童・生徒が食事の時間に牛乳を飲むことは一向に構わないが、国家による牛乳強要はおぞましい。古今東西、国民にある特定の食品を強要した国家が存在しただろうか。健康志向の強かったナチス・ドイツでもこんなことはしなかった。日本(農林水産省、文部科学省、厚生労働省)だけである。


3)文部科学省による「牛乳強要」の実態

文部省(現・文部科学省)は、1954年施行の学校給食法に基づいて、給食を「完全給食」「補食給食」「ミルク給食」の3つに区分した。完全給食は「パン+おかず+牛乳」「米飯+おかず+牛乳」「うどん+おかず+牛乳」の三つをさし、補食給食は「おかず+牛乳」、ミルク給食は「牛乳」である。「補食給食」「ミルク給食」という変な言葉は、補食給食ではごはんを、ミルク給食ではごはんとおかずを保護者が子どもに持たせるが、牛乳だけは学校側が用意するという意味である。つまり、どんな種類の給食であっても、児童・生徒は学校で常に牛乳を飲まされた。文部省は牛乳のない食事を学校給食として認めず、なにがなんでも子どもに牛乳を飲ませようと法律を利用したのである。

食育基本法が制定され、学校給食法が改訂された現在(2010年)でもこの事実に変わりはない。文部科学省は50年以上にわたって児童・生徒に行ってきた牛乳飲用の強要を今後とも続けるつもりである。その証拠に、新・学校給食法に伴って2009年4月1日に施行された学校給食法施行規則の第一条につぎの条文がある。

完全給食とは、給食内容がパン又は米飯(これらに準ずる小麦粉食品、米加工食品その他の食品を含む。)、ミルク及びおかずである給食をいう。

補食給食とは、完全給食以外の給食で、給食内容がミルク及びおかず等である給食をいう。

ミルク給食とは、給食内容がミルクのみである給食をいう。

「完全給食」「補食給食」「ミルク給食」という三つの用語は学校給食法施行規則(文部科学省の省令)に登場するだけで、上位法令の学校給食法(法律:国会が制定)にも学校給食法施行令(政令:内閣が制定)にも登場しない。つまり、学校給食に牛乳を出す、出さないは基本的には文部科学省の一存で決まることである。

文部科学省は1982(昭和57)年2月10日に「学校給食用牛乳供給事業の推進について」という体育局長(現在はスポーツ・青少年局長)通達を出した。これによると、県知事が教育委員会・指定生乳生産者団体・乳業者の代表などからなる学校牛乳(学乳)協議会を立ち上げ、供給価格の決定や供給事業者の選定など、学校給食用牛乳供給事業の推進を図ることになっている。この通達から、政府の学校牛乳に対する補助金(税金)は200mlあたり5円であることがわかる。保護者が支払う学校給食用の牛乳代は200ml当たり平均40円である。「人間の子どもであるうちの子にはウシの乳を飲ませたくない」という親は給食一回あたり40円の給食代(月20回の給食の場合、40x20=800円)を支払わなくてもよい。

さらにこの通達は、学校給食用牛乳供給事業の未実施校の解消、中学生に200mlではなく300mlの牛乳を飲ませようとしたり、供給日数の拡大、調理に牛乳・乳製品をもっとたくさん使うよう促すなど、牛乳消費の拡大を謳っている。学校教育を主管する文部科学省が子どもを犠牲にするこのような通達を出すのは極めて罪深い。


4)「牛乳強要」は農林水産省と文部科学省の共同謀議

農林水産省は酪農振興のため牛乳の消費拡大に懸命だった。手っ取り早いのは学校で児童・生徒に牛乳を飲ませることだった。「牛乳=完全栄養食品」という洗脳教育は頭の柔らかいうちに始めるのが効果的である。1985(昭和60)年2月5日に、農林水産省畜産局・牛乳乳製品課長は文部省・体育局学校給食課長宛に次のような依頼文を送っている。

学校給食用牛乳消費定着促進事業の実施について(通知)
学校給食用牛乳供給事業の実施については、従来から種々御協力を
賜っているところでありますが、この度、学校給食用牛乳消費定着
促進事業として、牛乳に関する正しい知識を図るため、かねてより
全国学校給食用牛乳供給事業促進協議会が作成していた児童、生徒
向けのビデオテープ及び壁新聞が完成し、左記により配布されるこ
ととなったので、御了知の上、貴関係機関に周知を願いたく依頼し
ます。

この依頼を受けて、文部省の学校給食課長は同年2月20日、各県教育委員会の学校給食主管課長宛に上記文章を添付するとともに、この牛乳消費定着促進事業の実施主体が県ごとの学校給食用牛乳事業促進協議会(以下「県協議会」)であること、県協議会が学校給食用牛乳消費定着促進ビデオテープを無料で貸し出すこと、壁新聞は同年2月上旬と3月上旬の2回にわたって学校給食に牛乳を出している小学校と中学校に配布されることを通知している。関連業界の利益拡大を使命と考える農林水産省畜産局牛乳製品課の先兵となって、文部省は「牛乳ほどよいものはない」と児童・生徒を洗脳したのである。

文部省は、児童生徒に牛乳を飲ませるために、県知事を巻き込んで酪農・乳業界ー教育委員会ー学校とつながる強固なシステムを作り上げた。一旦できあがると、このようなシステムは容易なことでは崩れない。たとえ法律が変わっても、利権システムは衣を替えて生き残る。

その後、2003(平成15)年10月1日から、独立行政法人・農畜産業振興機構(かつての特殊法人・農畜産業振興事業団)がこの学校給食用牛乳消費定着促進事業を継承し、日本酪農乳業協会(j-milk)という業界団体に本事業を委託して現在にいたっている。皆さんは、ウェブサイト「学乳スクエア」の「指導参考資料」→「制作物の紹介」→「壁新聞」でj-milkが作成する壁新聞がどんなものかを知ることができる。


5)文部科学省のまやかし

文部科学省は、2003(平成15)年5月30日付けで、「学校給食における食事内容について」という文部科学省スポーツ・青少年局長通達(かつての体育局長通達)を各都道府県知事らに出した。ある小学校の先生によると、「私たち教師はこの時から、生徒に牛乳を強要しなくてもよくなった。しかし、なぜそうなったのか理由はわからない」という。この通達には「生徒に牛乳を強要しなくてもよい」という文言は見当たらない。ただ、それまでの通達(たとえば1995年3月29日の文部省体育局長通達)には「学校給食の標準食品構成表」がついていて、これに<牛乳206g=200ml>が入っていたのである[表3]。したがって、学校給食には必ず200mlの牛乳が出された。牛乳のない食事は学校給食と認められなかったのである(牛乳の完全強制)。ところが、2003年の通達で、この標準食品構成表が削除された。だから、牛乳を出すことが学校給食の絶対条件ではなくなったのである(実際、三重県桑名市の2校の中学校は学校給食に牛乳を出さないことに決めたという)。
この標準食品構成表をご覧になった方は「文部省はこんな細かいことまで全国の小・中学校に指示していたのか」と驚かれたに違いない。食材の使用量を小数点単位で指示している。食品構成表は牛乳を特別扱いすると同時にあらゆる農産物を網羅している。米、牛乳、小麦粉、いも、砂糖、油脂、種実、大豆、魚介類、獣肉・鳥肉、卵、乳製品、緑黄色野菜とその他の野菜、果実、藻類。皆さんはこれ以外の農産物を思い出せるだろうか。どの農家からも苦情が出 ないように、文部省はバランスをとったのである。

「標準食品構成表」が消えたことで、一見「牛乳強制」がなくなったように見えるが、通達は返す刃(やいば)で学校給食における食品構成について次のように述べる。「牛乳については、児童生徒等のカルシウム摂取に効果的であるため、その飲用に努めること。なお、家庭の食事においてカルシウムの摂取が不足している地域にあっては、積極的に調理用牛乳の使用や乳製品の使用に努めること」。この通達はさらに、1日のカルシウム所要量の50%を学校給食でまかなうよう求めている。これは、言い換えれば、学校給食に牛乳を必ず加えよという「強制」である。しかしながら、牛乳嫌いの児童・生徒には朗報であった。牛乳を飲まなくてもよくなったのだ。そのためか、牛乳消費が低迷した。学校給食で出される牛乳は国産生乳(500万トン弱)のほぼ1割に相当し、学校は酪農・乳業界の最大のお客様である。学校給食の牛乳なくして、日本の酪農は成り立たない。

酪農・乳業団体に突き上げられた農林水産省が文部科学省に苦情を申し入れたのだろう。文科省は、2003年の通達を廃止して、新たなスポーツ・青少年局長通達(2008年10月30日)を出した。この新通達は、「学校給食においてカルシウムの供給源としての牛乳が毎日供給されている」ことを前提にして「学校給食摂取基準を改訂した」と述べ、「学校給食のない日はカルシウム不足が顕著であり、カルシウム摂取に効果的である牛乳等についての使用に配慮すること」と、2003年の通達以上に牛乳強要を押し進める内容となっている。そのため、牛乳なしでは学校給食の献立が作れないと栄養士が嘆いている。

解決策は簡単である。どうしても児童・生徒を人質にとる文部科学省のお達しを守りたいのであれば、調理にあたって卵殻・貝殻カルシウムを少々加えればよい。これらのカルシウムを振りかけに混ぜてごはんにかけてもよい。児童・生徒にホルモン入り牛乳を飲ませるくらいなら、卵殻・貝殻カルシウムの方がずっとましだ、糞便に排泄されるだけだから。明確に述べておくが、日本人にカルシウムが不足しているなどということはない。どうしてそんなことが言えるのか。詳しくは牛乳カルシウムの真実を参照していただきたい。

さらに農林水産大臣は、「我が国酪農の健全な発展を図るとともに、幼児、児童及び生徒の体位、体力の向上に資するため、国内産の牛乳を小学校、中学校、特別支援学校及び夜間課程を置く高等学校のすべての幼児、児童及び生徒に対し、次の基準により供給することを目標とする」として牛乳の「学校給食供給目標」を毎年公表している。これは、「酪農及び肉用牛生産の振興に関する法律」(昭和29年6月14日制定、最終改訂:平成19年5月25日)の第24条の3の2に「農林水産大臣は、<略>、国内産の牛乳の消費の増進を図ることにより酪農の健全な発達に資するため、国内産の牛乳を学校教育法に規定する小学校及び中学校その他政令で定める学校における学校給食用として広範に供給することを目途として、国内産の牛乳の学校給食への供給に関する目標を基本方針に即して定め、これを公表しなければならない」とされているからである。さらにつづいて、「農林水産大臣は、学校給食供給目標を定めようとするときは文部科学大臣に協議しなければならない」とあるから、供給目標の数値は農林水産省と文部科学省が相談して決めているのである。

2007(平成19)年6月29日公表された牛乳供給目標によると、農林水産省と文部科学省はなんと、中学校、夜間高等学校、特別支援学校高等部の生徒に300mlの牛乳を飲ませようと謀ったのである(下表)。

 

年間供給日数   1人1日当たり供給量  

小学校児童        195日      200ml

中学校生徒         195日    300ml

夜間高等学校生徒   192日       300ml

特別支援学校幼稚部幼児 195日   200ml

特別支援学校高等部生徒 195日   300ml


ところが3年後の2010(平成22)年12月21日に公表された牛乳の供給目標では、中 学校、夜間高等学校、特別支援学校高等部の生徒に対する供給目標は300mlから200mlに下げられている。もし、300mlもの牛乳を飲まされていたら、相当数の生徒が腹痛・下痢・腹鳴(おなかゴロゴロ)に悩まされたことだろう。子どもを護るべき立場にある文科省がこんな計画をめぐらすとは! この省庁の存在は日本の不幸である。

さらに、農林水産省は農林水産大臣の名で「平成20(2008)年における国内産の牛乳の学校給食への供給計画数量を448,900キロリットルと定めた」と公表したが(平成20年11月13日)、2年後の平成22年12月21日には供給計画数量を6万4900キロリットル(200mlの牛乳ビンで3億3245万本分)引き下げ384000キロリットルに修正した。上述の牛乳の「学校給食供給目標」の引き下げに合わせたのであろう。

牛乳を飲んだところで子どもの背が高くなることはないし骨粗鬆症の予防になるわけでもないが、カルシウム問題はたいしたことではない。骨粗鬆症はその人一代限りのことである。しかし、牛乳ホルモンの問題は現世代(乳がんと前立腺がん)だけでなく次世代以降にまで影響がおよぶ(「日本の少子化」をお読みいただきたい)。問題の性格と大きさがぜんぜん違う。学校給食の牛乳を止めることが食育の最優先事項である。文部科学省は、日本の子どもを犠牲にして、業界(酪農・乳業)の保護に走っている。牛乳・乳製品は嗜好品である。飲みたい・食べたいという人は飲みかつ食べればよい。そんなことは個人の勝手である。もし、牛乳に骨成長を助け、骨粗鬆症を予防する機能があるというのなら、乳・乳製品は特定保健用食品(トクホ)である。酪農業界と乳業メーカーは乳・乳製品を「特定保健用食品」あるいは「栄養機能食品」として申請をすべきだ。

落語のような話であるが、日本酪農乳業協会は2008年から、「ミルクって、サプリかも」という宣伝を新聞・雑誌やテレビに登場させるようになった。テレビは「牛乳はおいしいサプリメントです」というコマーシャルを流している。協会がいうように、牛乳はまさしくサプリメントである(サプリメントが無意味なことは「終章」で述べる)。日本酪農乳業協会は自ら「語るに落ちた」のである。文部科学省は特定業界のサプリメントを学童・生徒に強要している!


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