東京電力の原発事故に伴う損害賠償の目安をつくる政府の「原子力損害賠償紛争審査会」の一部委員が、電力業界とつながりの深い研究機関から、毎月20万円ほどの報酬を得ていることが分かった。審査会は、円滑に賠償を進めるため、東電と被害者の間に立って紛争を解決する役割を担っているが、中立性に疑問が生じる恐れがある。
審査会は4月11日、文部科学省に設置された。現在の委員は9人で、学習院大教授の野村豊弘氏(68)と早大大学院教授の大塚直氏(52)が、「日本エネルギー法研究所」(東京都港区)から報酬を得ていた。
野村氏は4月にエネ法研の理事・所長に就任して以来、毎月20万円程度の固定給を受け取っている。大塚氏は委員就任前から研究部長の職にあり、毎月20万円の固定給を得ていた。ただ、周囲からの助言で、6月末に研究部長を辞め、4〜6月の報酬を返納した。
エネ法研は、年間1億数千万円の運営費のほとんどを、財団法人「電力中央研究所」(東京都千代田区)からの研究委託に頼る。電中研の今年度の事業規模は339億円。300億円近くは電力業界が拠出し、そのうちの90億円ほどを東京電力が負担している。
人的にも、電力業界とのつながりは深い。エネ法研の役職員は約20人。理事長を含む6人の理事はすべて法学者だが、研究員は沖縄を除く電力9社からの出向や派遣。事務部長と事務課長は歴代、東電出身者だ。
東電とつながる研究機関から、委員が固定給を得ていることについて、文科省原子力損害賠償対策室は「委員の選考過程での目配りに瑕疵(かし)があり、エネ法研についての認識が甘かったという批判は受けるかもしれない」と認める。ただ、今後の委員の扱いについては「疑義が生じれば、そのときに対応を考えたい」と説明している。
エネ法研との関係では、別の委員も研究班の「主査」を務めていたが、中立性を考え、主査を辞めて委員に就いた。6月には、福島県立医科大副学長への就任が内定した委員が「利害関係者になる恐れがある」として委員を辞めている。(木村裕明、大津智義)