東京電力福島第一原発の事故を受け、文部科学省は9月にも、放射線の基礎知識を教えるための副読本を全国の小中高に配布することを決めた。正しい知識が普及していないことで、福島県から県外に避難した子どもたちがいじめられることなどが心配されており、正確な知識を伝えるために活用してもらうという。
これまで放射線教育に特化した教材はなかったため、小学、中学、高校向けの3種類を新たに作る。
基礎的な知識を身につけることに重点を置き、ウランなどの放射性物質から放射線が出されることや、自然界や医療現場でも放射線を浴びることがあることを説明。どの程度の放射線を浴びたら体にどんな影響が出るかや、ベクレルやシーベルトといった単位の違い、人から人へ放射線がうつることはないといった基礎知識も教える。
さらに、原発事故が起きた際には国や自治体からの情報に注意して避難するといった、いざというときの対応や防護策も盛り込む。
全国の学校に1冊ずつ配り、必要に応じてコピーして使ってもらうほか、ダウンロードして活用できるようにインターネットでも公開する。教え方は学校現場の判断に委ねるという。
文科省には原発事故後、各地の学校や教育委員会から「放射線を教える教材がほしい」との要望が相次いでいた。放射線について教えた経験がない教員が多いことから全国で放射線に関する教え方のセミナーも開いているが、毎回参加者が殺到しているという。
原子力に関する副読本はこれまでも、文科省と経済産業省資源エネルギー庁が作った別のものが学校に配られていた。こちらは原発の安全性を強調した内容で、「原発は五重の壁で安全」「津波対策をとっている」といった表記が事故後に問題となり、内容の見直しを迫られている。(井上裕一)