原発穴埋めにコストの壁 再生エネ「20%」は至難
政府、エネルギー計画見直し着手
政府は22日、福島第1原子力発電所の事故を受けてエネルギー戦略を抜本的に見直す「エネルギー・環境会議」の初会合を首相官邸で開いた。原発推進が難しくなるなか、再生エネルギーを含めた電源構成のバランスや、電力会社の発電・送電部門の分離問題が焦点になる。一方で足元の電力不足への対応も大きな論点。応急的なエネルギー供給対策と中長期の戦略をどう橋渡しするかが問われそうだ。
政府はまず7月末までに来夏も含めた短期的なエネルギー需給安定策を決定。続いて来年中に中長期の対策をまとめる。同会議の議論はエネルギー基本計画の見直しに反映させる。
焦点の一つの電源構成については、議長を務める玄葉光一郎国家戦略相が会議の中で「原発の依存を徐々に減らしていく」と発言した。原子力の発電比率は2030年までに09年度の29%から50%以上にする計画だが、電力10社の今年5月の発受電電力量に占める割合は21%にまで下がっており、目標を下方修正する見通しを示した。
問題はその分をどのエネルギーで補うかだ。会議では省エネや再生エネルギーの拡大で賄う方向で検討を進める。環境省は東日本大震災で被災した東北地方で、東北電力の供給量を超える年間830億キロワット時の風力発電の導入が可能との試算も示した。
ただ発電量に占める再生エネルギーの比率は水力を入れても07年度時点で9%と低く、菅直人首相が掲げる「20年代の早期に20%超」という目標には遠い。政府の試算では太陽光発電の場合、発電量あたりのコストが石油火力の約2~4.6倍、原子力の6~10倍かかり、割高な発電コストが普及の足かせとなっている。
この差を首相がこだわりを見せる全量買い取り制度など政策や技術革新で埋めることが課題になるが、そもそも政府が持っている原子力や火力の試算は04年時点と古く、「統一的なコストを示すデータがない」(内閣官房幹部)。会議ではまず、原油高や原発事故の賠償金負担分も考慮した新しい試算を提示する方針だ。
一方、再生エネルギーでは賄えない場合、火力など化石燃料の拡大は避けられない。
ただ足元の試算では、稼働中の全国の原発が全基止まり、それを火力で補った場合、液化天然ガス(LNG)の輸入増などで年間3兆円のコスト増が発生。企業負担は1兆6千億円に達し、競争力低下を嫌う企業の海外流出が増える可能性が高い。火力の増発で「温暖化ガスを20年までに90年比25%減らす」とする政府目標の見直しも「会議での議論の対象」(平野達男内閣府副大臣)にせざるを得ない。
会議では「発送電分離」も重要テーマの一つになる。発電事業に参入しやすくなるため、再生エネルギー普及の一環として首相も「選択肢としてあり得る」と前のめりだ。ただ経済産業省や電力業界は「安定供給の義務に悪影響が生じる」と慎重で実現には相当の指導力が必要。求心力を失った政権下では、「電力小売り自由化の適用拡大が現実的」(経産省幹部)との声も出ている。
一方、経産省もエネルギー基本計画の見直し作業をスタートさせる。7月上旬にも総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)の総合部会に「基本問題委員会」(仮称)を設置する方向で調整を進めており、年末から来年にかけて基本計画の原案を策定する。今年8月末までに論点整理をまとめる見通しだ。
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