「原発事故の影響で鼻出血や下痢が増えた」という話への長野県在住の血液内科医による解説

「出血性の病気を普段診ている立場」の医師によるコメント。元々素人目でも「出血するくらいなら病院に駆け込むのが最優先事項なのに、そういう話はとんと耳にしない」という疑問はありましたが、やはり専門家による話は説得力があります。 ●追加解説: 「鼻血と原発と「ジャーナリスト」と専門家と」( http://www.jgnn.net/ls/2011/06/post-2235.html )でちょいとまとめましたが、別の方のまとめ 「放射線科医による放射性ヨードI-131の解説と木下黄太氏のブログへの反論」 http://togetter.com/li/149186 と合わせて読むと、さらに「色々と」理解が深まると思います。
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森 勇一 @ymori117

原発事故の影響で鼻出血や下痢が増えたというデマに対しては、すでに決定的な反論が出ているんだけど、 http://bit.ly/kS3h2v 白血病とか血小板減少症とか、出血性の病気を普段診ている立場からコメントしておく。

2011-06-17 02:03:19
森 勇一 @ymori117

まず、放射線で出血や下痢が起こる仕組みから。出血は、放射線によって血液細胞のひとつ血小板が作れなくなるから。血液細胞は血液中を流れる細胞で、白血球・赤血球・血小板がある。白血球は身体に入ってきた細菌を殺して体を守る免疫細胞。赤血球は肺から取り込んだ酸素を全身に運ぶ。

2011-06-17 02:06:28
森 勇一 @ymori117

血小板は出血を止める働きをする。出血は血管が破れて血液が漏れることだけど、血小板が破れたところにびっしり張り付いて穴をふさぎ、出血を止める。だから血小板がなくなると出血が止まりにくくなる。ただし、相当ひどく減らないと、出血症状は起こってこない。

2011-06-17 02:10:39
森 勇一 @ymori117

血小板数の標準値は血液1マイクロリットル(1mmの立方体の体積)あたり15万~35万。これが2~3万くらいに減ってくると、出血が止まりにくい症状が出てくる。ただこれも個人差があって、何ヶ月もかけて減少すると体のほうが慣れるので、1万くらいでも出血しない。

2011-06-17 02:13:15
森 勇一 @ymori117

血小板減少による出血症状は全身に起こる。多くは外力のかかる脚(特にすね周囲)に始まり、手の周囲、胸・腹に点状出血(細かい青あざ)や皮下出血(大きい青あざ)が徐々に増えてくる。鼻出血や歯肉出血が出てくるのは最後のほうだ。だから、鼻出血「だけ」なら他の原因を考えるのが先だ。

2011-06-17 02:16:18
森 勇一 @ymori117

放射線による血小板減少は、一緒に白血球・赤血球の減少も起こしてくる。これら血液細胞は、すべて造血幹細胞という大元の細胞で作られていて、強力な放射線はこの造血幹細胞にダメージを与えるからだ。そして、このダメージは少量の内部被曝ではなく、強力な外部被曝で起こる。

2011-06-17 02:19:20
森 勇一 @ymori117

放射線による細胞のダメージはDNA損傷だが、細胞にはこの損傷を修復する機能がある。だから、血小板がほとんどなくなってしまうくらいのダメージが造血幹細胞に入るのは「大量の放射線が」「一気に」当たった場合だ。具体的には2グレイ(≒2000mシーベルト)以上の放射線量。

2011-06-17 02:22:33
森 勇一 @ymori117

だから、鼻出血が起こるくらいの血小板減少をきたす被曝は、起こるとしても原発の事故現場くらいなものだ。マイクロシーベルト単位の放射性物質が検出されたのされないのという、そんな弱い線量では起こりえない。

2011-06-17 02:25:39
森 勇一 @ymori117

被曝で造血幹細胞に深刻なダメージが起こった場合、もうひとつ問題になるのは白血球減少だ。細菌やウィルスを身体から守る細胞がごっそり減ってしまうので、感染に弱くなる。口の中や腸の中に住んでいて、普段は人間と共存している細菌が血液中に入って重症重症感染を起こしてきたりする。

2011-06-17 02:28:44
森 勇一 @ymori117

だから、「放射線による影響で鼻出血」ってのは、大量の放射線を一気に浴びた場合に起こることで、全身の出血症状が先に起こってきて、多くは重症感染も一緒に起こってくる、きわめて厳しい状態のことを指す。日本においては、原爆の被爆者と、1999年の東海村臨界事故の被害者2人だけだ。

2011-06-17 02:32:32
森 勇一 @ymori117

次に下痢が起こる仕組み。放射線で腸の壁をかたちづくる粘膜がダメージを受けるから。粘膜細胞は数日で入れ替わっているんだけど、放射線で粘膜細胞のDNAが損傷を受けて次世代の細胞を作れなくなる。数日経つと旧世代の粘膜細胞がはがれ落ちて、腸の壁の中身がむき出しになる。

2011-06-17 02:36:53
森 勇一 @ymori117

むき出しになった壁の構造物から、血管からしみでた水分や、壊れた血管からの出血が起こって下痢になる。血小板が減って出血は止まりにくいし、白血球がなくて細菌感染でさらに下痢が悪くなるので、これも非常に深刻な病状だ。「ちょっと心配だから病院へ」なんてレベルの人には縁のない話。

2011-06-17 02:39:23
森 勇一 @ymori117

これが起こったのが、東海村臨界事故の被害者3人のうち、一番重症だった方。経過は当時の全国骨髄バンク推進連絡協議会誌に詳細に記載されている。 http://goo.gl/BrUD1

2011-06-17 02:41:11
森 勇一 @ymori117

なので、下痢「だけ」なら、やっぱり他の原因を考えるのが先だ。

2011-06-17 02:43:31
森 勇一 @ymori117

そして、白血球・赤血球・血小板が減る病気は放射線以外にもあって、急性白血病とか、重症再生不良性貧血とか、特発性血小板減少性紫斑病(これは血小板のみ)などがそうだ。人口10万人あたり年間数人しか起こらない病気だが、それでもこの50年で2人しか起こらなかった高線量被曝よりは多い。

2011-06-17 02:47:01
森 勇一 @ymori117

そんなわけで、「福島原発事故の影響で鼻出血と下痢が増えた」なんて話をきいても、「どうやったらそんなことが起こるんだい???」と思ってしまう。(おわり)

2011-06-17 02:48:15
森 勇一 @ymori117

まずは「本当に」鼻出血が増えているのか、確認するのが先決かと。 RT @amusn: では今の多人数の鼻出血の原因は??

2011-06-17 03:03:01